盃盤はいばん)” の例文
中はまことに慘憺さんたんたる有樣で、檢屍前の死骸は、僅かに隣りの部屋に取込んでありますが、盃盤はいばんと血潮と、手のつけやうのない混亂です。
道を転じて静緒は雲帯橋うんたいきようの在るかたへ導けり。橋に出づれば正面の書院を望むべく、はや所狭ところせまきまで盃盤はいばんつらねたるも見えて、夫は席に着きゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
く息さえも苦しくまた頼もしかった時だ——「鬼よ、羅刹らせつよ、夜叉の首よ、われを夜伽よとぎの霊の影か……闇の盃盤はいばん闇を盛りて、われは底なき闇に沈む」
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
と勝手を存じていますから、たしなみの物を並べて膳立ぜんだてをいたし、大藏の前へ盃盤はいばんが出ました。お菊は側へまいりまして酌をいたす。大藏はさかずきって飲んでお菊に差す。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
主膳とは碁敵ごがたきになっているが、主膳の方がずっと強いながら、この辺としてはくっきょうの相手ですから隠居は、主膳の来訪を喜んで、眺めのよい高楼に盃盤はいばんを備えて待受け
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
樂人共がくじんどもひかへてゐる。給仕人共きふじにんども布巾ふきんたづさへてきたり、取散とりちらしたる盃盤はいばんをかたづくる。
五ツの座敷ブチ抜きたる大筵席だいえんせきは既に入り乱れて盃盤はいばん狼藉らうぜき、歌ふもあればねるもあり、腕をして高論するもの、を擁して喃語なんごするもの、彼方かなたに調子外れの浄瑠璃じやうるりに合はして
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
今日も嘉門はただ一人で、取りちらされた盃盤はいばんを前に、裏座敷で酒を飲んでいる。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
君らがいわゆる盛会に例の如く妓をへいし酒を飲み得々とくとく談笑するときは勿論、時としては親戚・朋友・男女団欒たる内宴の席においても、一座少しく興に入るとき、盃盤はいばん狼藉ろうぜきならしむる者は
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
我国の膳部ぜんぶにおけるや食器の質とその色彩紋様もんよう如何いかんによりてその趣全く変化す。夏には夏冬には冬らしき盃盤はいばんを要す。たれまぐろの刺身を赤き九谷くたにの皿に盛り新漬しんづけ香物こうのもの蒔絵まきえの椀に盛るものあらんや。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あらゆる人を遠ざけて、宗祖紫琴女と、別當赤井主水の二人、渾天儀を据ゑた三階の一室に、盃盤はいばんを挾んで相對して居りました。
とかくする盃盤はいばんつらねられたれど、満枝も貫一も三ばいを過し得ぬ下戸げこなり。女は清めし猪口ちよくいだして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
文治郎は案内に連れられまして奥へ通りますと、道場の次の座敷のれこれ十畳もあります所へ、大いなる盃盤はいばんを置きまして、みんな稽古着に袴を着けまして酒宴をして居ります。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
棚には植木鉢その外種々いろ/\結構な物が並べてあり、置物は青磁の香炉古代蒔絵の本台などが置並べて前に緞子どんすしとねを置いてかたわらの刀かけに大小を置き、綿入羽織を着て、前の盃盤はいばんには結構なる肴があって