わずら)” の例文
小さい時からも病弱であったし、十七の時にわずらった脊椎せきついカリエスが今はかたまっているとはいえ、八重はまだコルセットをはめている。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
そのためによしわずらって死んだって、また恥ずべき名が世間に立とうとも自分ひとりのことである。何人にもどうしてくれといいたくない。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
口の裡で夫人から受けた高恩を謝した。涙がまた新しく頬を伝った。夫人は急激な尿毒症に襲われ、僅か五時間のわずらいでたおれたのであった。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
揃ってお仕着せの薄灰色のガウンをかき合わせ、それだけはわずらわぬ舌によって空気を震わす盛な声が廊下に充満する。
一九二九年一月――二月 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「だが、俺のように体ばかり健で、ほかに取得のねえのも困ったものさ。俺はちっとはわずらってもいいから、新さんの果報の半分でもあやかりてえもんだ」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
船印だしを彫るはもとより、手当り次第に精を出し、一時は少し銭を貯めたが、わずらったので駄目になり、又稼いでいるうちに考えれば居ても起っても耐らないので
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
秋口からわずらいつき、岩穴の前の岩壁に背をもたせてぼんやりと畑をながめているようになった。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
うちへ帰ってからその主人は、三月みつきほどわずらいました。わずらったなり死んでしまいました。
夜釣の怪 (新字新仮名) / 池田輝方(著)
受取ったのです。長くわずらっていたのですが、もう愈々駄目らしいから、暫く介抱に来てくれというのです。妻子はなく、近い身寄りと云えば僕一人なので、呼寄せたくなったのでしょう
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どうしてよいか分からぬ憂欝に、わずらいついた。
わずらっても人夫たこは現場へ追い出される
章魚人夫 (新字新仮名) / 広海大治(著)
描写のアクセントというものは興味ありますね、北京でひどく貧乏して細君にわずらわれたそうです。
さてどうも娑婆しゃばのことはそう一から十まで註文ちゅうもん通りにはまらぬもので、この二三箇月前から主はブラブラわずらいついて、最初は医者も流行感冒はやりかぜの重いくらいに見立てていたのが
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
わずらって死にましたから、じかに聞いた訳ではねえが、おッかさんが家を出なさる時、おやじの身持ちがよくなかった、罪はおやじにあったのだと、大きくなってから聞いております。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
重吉もまだ二十四で、帰りたい気持はおなじだが、浪風の苦だけでもたくさんなのに、故郷を思い、親や妻子のことを案じて泣いてばかりいては、そのうちにわずらいついてしまうだろう。
重吉漂流紀聞 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
じゃけどな、おきんさん、わしはたびたび無心いいとうはないんじゃけどな、家のじじいがな、二、三日前から、わずらいついてな。……食うものも食わんのじゃけに、わずらいつくのも当り前じゃがな。
義民甚兵衛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
若し誰も知らないところでわずらって、そのまま死んででもしまったらと思うと、自ずと涙ぐまれた。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
政吉 云って悪いか知れねえが、いもつらいも二人なら、泣きの涙のその中にも楽しみみていなものもあろう、それを力にわずらわねえよう、気をつけてお行きなさい。永くいたら迷いが却って深くなる。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)