疫痢えきり)” の例文
大腸カタル、若しかしたら疫痢えきりかも知れませんよとおかみさんは云った。どんな具合でしょうかと訊くと、なにしろ年寄ですからねえと云った。
おじさんの話 (新字新仮名) / 小山清(著)
「越前守さまのお末の子——お三ツになられるのが、春には重い風邪を病み、また梅雨つゆすぎから疫痢えきりにかかって、まだ捗々はかばかしくないのでしてな」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちなみに弟のたかしは、私が八歳の時に疫痢えきりで死んだ。そのためであったろう。母は又、私の処に帰って来て、大きな乳を私に見せびらかすようになった。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その龍眼肉の食べすぎから、少年が疫痢えきりのやうな症状をおこし、一週間ほど生死の境をさまよつたのは、恐らくこの家に移つて間もなくのことだつたらしい。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
疫痢えきりではないでしょうか?」「いや、疫痢じゃありません。疫痢は乳離ちばなれをしない内には、——」
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このやさしいにいさんは、その翌年よくねんはる疫痢えきりわずらって、わずか一にちんでしまったのでした。
ゆずの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうちに知人のある者は保養地で疫痢えきりのために愛児を亡くしたりした。それでもう海水浴というものが恐ろしくなって、泊りがけに行く気にはなれなくなってしまった。
小さな出来事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
わずか半日半夜のうちに、十二の夏疫痢えきりで死んで行った娘の畳の上まで引いた豊かな髪を、味気ない気持で妻がいとおしげにくしけずってやっていたのも、その一室であった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
疫痢えきりってやつさ。そしたら、そのときまだ生きていたうちのおじいさんがね、この柿は孫の仇だって、伐ってしまったのさ。それからはいくら柿の木を植えても、そだたないのさ。
柿の木のある家 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「村岡君、疾風というのは疫痢えきりのことだよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そこで、検非違使けびいし包待制ほうたいせいのごときは、施薬院せやくいん医吏いりをはげまし、また、自分の俸給まで投げだして、必死な救済にあたっておりますが、いかんせん、疫痢えきり猖獗しょうけつにはかてません。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それだけならばまだ女も、あきらめようがあったのでしょうが、どうしても思い切れない事には、せっかく生まれた子供までが、夫のひゃっにちも明けない内に、突然疫痢えきり歿くなった事です。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
例えばある家庭で、同じ疫痢えきりのために二人の女の児を引続いて失ったとする。
厄年と etc. (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのなかの丸いのをぼんにのせて仏壇ぶつだんに供えたのだったが、疫痢えきりといううわさが立って、だれもきてくれぬ通夜つやまくらもとにすわって、いつもの停電がすんだあと、お母さんはふと気がついたように
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「おれには、政治向きのことは、分らないが、毎年の疫痢えきりや洪水でも、都の窮民は、みじめなものだ。——その出水の水が引かないうちに、もう公卿たちの館では、管絃のが、聞かれ出すのに」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たぶん今云う疫痢えきりであったろうと思われる。
追憶の医師達 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
年ごとの秋の出水でみずに、この界隈かいわいは、やたらに池や小川ができ、かせぐ親たちから目のかたきにされている子の餓鬼がきたちが、しぎにわなをかけたり、釣をしているかと見れば、疫痢えきりの病人を家にもつ女が