獄裡ごくり)” の例文
あの艶姿と賢さと、わけてその情熱とは、獄裡ごくりの夢にも夜々恋々よよれんれんと消し難いものがおありなのにちがいない……と、道誉にはよくわかる。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
書物位はどうでもいいというたところが一番肝腎かんじんな事はチベットの獄裡ごくりに在る友人を救う事であるが、それが救えないではつまらぬじゃないか。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
マニョンはまたそれを、サルペートリエールにいるバベの情婦に渡した。ビスケット一つは、獄裡ごくりの暗黒な象徴主義では、「とうていだめ」という意味である。
恐るべきのろいの女は、用意の毒薬を服し、線路によこたわって、名誉の絶頂から擯斥ひんせきの谷底に追い落され、獄裡ごくり呻吟しんぎんするであろう所の夫の幻想に、物凄い微笑を浮べながら
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
君が「火の柱」の主公篠田長二しのだちやうじとらへて獄裡ごくりに投じたるものに君の為めにしんをなせるに非ずや、君何ぞ此時を以て断然之を印行いんかうに付せざるやと、余の意にはかに動きて之を諾して曰く
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
獄裡ごくりに長くつながれたとはいえ、それを囚人あつかいにし、出獄してから後も、囚人であった事を売物見世物みせもののようにして、舞台にさらしたり、寄席よせに出したりしたのはあんまり無惨むざんすぎる。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
彼は自分の部屋の窓の下を往来する人達と全く無関係に生きて行く異邦の旅人としての自分の身をその客舎に見つけた。あだかも獄裡ごくりつながるる囚人しゅうじんが全く娑婆しゃばというものと縁故の無いと同じように。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また、同じ増鏡の別の章では、そうした持明院派のちょうに時めく人々のさまは、そこはかとなく、板屋の獄裡ごくりへもしのばれようと
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もはや明日あすはパーリーという第一の関門へ着くので、事もし発覚すればおのれもとらえられて獄裡ごくり憂目うきめを見なければならぬという怖れを懐いたからでしょう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
さしもの紳士盗賊も遂に獄裡ごくりひととなったのであるが、その煙草の吸殻から盗賊逮捕までの径路に一寸探偵小説じみた興味があるので、当時のある新聞には、続き物になって
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
戸の外に筆記して居るものがあるも知れないです、——し私一己いつこの野心から申すならば、今まむなしく牢獄にとらはれて、特に只今たゞいま御話の如き暴行は、随分各国の獄裡ごくりに実験せられた所ですから
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
辱めるもの。獄裡ごくりの辱はしのぶとするも、長途、沿道の民草のあいだを、法師輿ほうしごしにひとしい物などに乗っては行けん
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この位な無礼を受けてさえも忍び難いほど苦しい観念が起る位だから、チベットの獄裡ごくり虐待ぎゃくたいを受けて居る我が恩人はどうして居るかと思わず涙があふれました。その時
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
時うつしては、或いは、どさくさまぎれに、荒木村重の家中が、獄裡ごくりにある官兵衛様のおいのちに危害を加えない限りもない。——ではこれからすぐ急ごう。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、獄裡ごくりのおこころも察して独りあせっていた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)