片輪車かたわぐるま)” の例文
思うに、まったき名将といわるるには、智勇兼備、水陸両軍に精しく、いずれを不得手、いずれを得手とするが如き、片輪車かたわぐるまではなりますまい
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薄く掛けた友禅ゆうぜん小夜着こよぎには片輪車かたわぐるまを、浮世らしからぬ恰好かっこうに、染め抜いた。上には半分ほど色づいたつたが一面にいかかる。さみしき模様である。動く気色けしきもない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんなことを考えているうちに、例の馬力が魔の車とでも云いそうな響きを立てて、深夜の町をきしって来た。その昔、京の町を過ぎたという片輪車かたわぐるまの怪談を、私は思い出した。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
げたこしちあへず、いしうづくまつた。くされ、れて、樹蔭こかげつき斷々きれ/″\に、ほねくだいてらしたれば、片輪車かたわぐるまかげたふして、輪𢌞りんねすごゑがけるさま
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ぱち/\と鳴ると、双子山颪ふたごやまおろしさっとして、松明たいまつばかりに燃えたのが、見る/\うちに、ごうと響いて、およ片輪車かたわぐるまの大きさに火のからんだのが、こずえかかつて、ぐる/\ぐる/\と廻る。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
片輪車かたわぐるま変化へんげが通るようで、そのがたんと門にすれた時は、鬼が乗込のりこ気勢けはいがしました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)