燕麦えんばく)” の例文
旧字:燕麥
赤シャツの農夫はのそばの土間に燕麦えんばくわら一束ひとたばいて、その上に足をげ出してすわり、小さな手帳てちょうに何か書きんでいました。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
火曜と木曜には、同宿のもの一同に白パンに蜜入りの汁、それにいちごか塩漬けの玉菜、それから碾割ひきわり燕麦えんばくがつくことになっております。
其れが世田ヶ谷騎兵聯隊から持って来た新しい馬糞で、官馬の事だから馬が食ってまだよく消化しょうかしない燕麦えんばくが多量にまじって居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
馬はここちよい場所で深く眠りこんで、玉蜀黍とうもろこし燕麦えんばくのみのっている山々や、おおかわがえりやクローバの生えた谷間を夢に見ていたのである。
だがほれ、ニコラーエフへ行くと——これはここから二十八露里もある町じゃがな、あすこの乾草はなかなかええし、それに燕麦えんばく御馳走ごちそうも出るのじゃ。
……牧草でも、レッドトップならば匂いぐらいはぎまするが、チモーシとなれば、はやもう、鼻面はなづらも寄せん。燕麦えんばくに大豆。それから、ふすまに唐もろこし。
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
戦後樺太からふとを旅行した時処々の山野に燕麦えんばくが雑草となって繁茂しているのを見たが、この稲も何かの事情で立ち退いた前住民の残したものであったかも知れぬ。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
蜜蜂みつばちはジャスミンの花に集まり、蝶の群れはクローバーやのこぎり草や野生の燕麦えんばくの間を飛び回り、ロア・ド・フランスの壮大な園には鳥の浮浪の群れがいた。
カロラインがかかげていたエープロンをさっと振り払うと、燕麦えんばくが金の砂のように凍った土の上に散らばった。一羽の雄鶏は群れから少し離れて高々と時をつくった。
フランセスの顔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
両側の畑には穂に出て黄ばみかけた柔かな色の燕麦えんばくがあった。またライ麦の層があった。トマトの葉のみどり、甘藍キャベツのさ緑、白い隠元豆の花、唐黍とうきびのあかい毛、——
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
だから、私も彼には燕麦えんばくでも玉蜀黍とうもろこしでもちっとも惜しまず、たらふく食わせてやる。からだにはうんとブラシをかけ、毛の色に桜んぼのような光沢つやが出るくらいにしてやる。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
同じ道を何べんも通る橇によって、陸地と同様に氷の上にも深い轍跡やくぼみができ、馬どもはみんな氷の切石をバケツのようにりぬいたものからかれらの燕麦えんばくを喰った。
そこで玄徳以下、張飛や関羽たちも、ようやくここにむくいられて、前進一歩の地をしめ、大いに武を練り兵を講じ、駿馬に燕麦えんばくを飼って、平原の一角から時雲の去来をにらんでいた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ウォルコフは、その百姓服に着換え、自分が馬上でまとっていた軍服や、銃を床下の穴倉へかくしてしまった。木蓋の上へは燕麦えんばくの這入った袋を持ってきて積み重ね、穴倉があることを分らなくした。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
そして、いかなる種類の家畜にしろ、家畜を養うための燕麦えんばくや豆や蕪菁かぶを作っている畑もない。道路にとられる土地はほとんどなく、道路は数が少なく、また狭く、主たる交通は水路によっている。
毎日まいひ毎日馬鈴薯ごしょいも燕麦えんばくばかり
百姓仁平 (新字新仮名) / 今野大力(著)
そこらの畑では燕麦えんばくもライ麦ももう芽をだしていましたし、これから何かくとこらしくあたらしく掘り起こされているところもありました。
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
彼の足並みに速度を合わしてきた辻馬車つじばしゃの方も、上方の胸欄のそばに止まった。御者は長待ちを予想して、下の方が湿ってる燕麦えんばくの袋を馬の鼻面にあてがった。
フオク持つ人もくもくと掻き掻けり燕麦えんばくならし黄の穂かがやく
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
近くには小道もなく、草が高く茂っていてすぐに足をぬらすので、その方へ踏み込んでみようとする人もない。少し日がさす時には、蜥蜴とかげがやってくる。あたりには、野生の燕麦えんばくがそよいでいる。
燕麦えんばくは今刈りへて真夏なり修道院にいたるいつぽんの道
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
聴けよ、また、燕麦えんばく
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
燕麦えんばく漆姑草つめくさ、青蓬
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)