熱鬧ねっとう)” の例文
熱鬧ねっとうきわめたりし露店はことごとく形をおさめて、ただここかしこに見世物小屋の板囲いをるる燈火ともしびは、かすかに宵のほどの名残なごりとどめつ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて、竹伐たけきりの行事も終り、白い夕星ゆうずつに、昼間の熱鬧ねっとうもやや冷えてくると、山は無遍の闇の中に、真っ赤な大篝おおかがりの焔をたくさんに揚げはじめた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紅塵万丈の熱鬧ねっとう世界を遠く白雲緬邈めんばくの地平線下に委棄しきたって、悠々として「四条五条の橋の上」に遊び、「愛鷹あしたか山や富士の高峰たかね」の上はるかなる国に羽化登仙うかとうせんし去るのである。
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
替えたばかりの畳の上に寐ころんでいると、如何なる熱鬧ねっとうちまたにあっても、生々たる自然の呼吸に触れるように感ずる。自然に親しい日本建築の一条件に算うべきものであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
たきなどの滴垂したたりおちる巌角いわかどにたたずんだり、緑の影の顔に涼しく揺れる白樺しらかば沢胡桃さわぐるみなどの、木立ちの下を散歩したりしていたお増の顔には、長いあいだ熱鬧ねっとうのなかに過された自分の生活が
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だが、両国などの熱鬧ねっとうした花火の晩のあと、暗い霧が落ちて、しいんと都会が冷たくなる時の陰気さはなんともいえない。やっぱり花火は生き物で、妖怪さ。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
銀座がネオンとジャズでき返るような熱鬧ねっとう躁狂そうきょうちまたと化した時分には、彼の手も次第にカフエにまで延び、目星めぼしい女給で、その爪牙そうがにかかったものも少なくなかったが、学生時代には
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
昼は人いきれと熱鬧ねっとうほこりに割れ返りそうな博物会の巨大な小屋も、夜は、ものでも出そうに真っ暗だった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のみか、いつのまにやら日はたそがれ、盂蘭盆会うらぼんえ熱鬧ねっとうのちまたも遠く夕闇の楊柳原やなぎはらまで来てしまった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜も昼も、人と神楽かぐらばやしに熱鬧ねっとうしていた祭の混雑に乗じて、ゆうべの深夜から今朝までの間に、総務所の平等坊の宝蔵が、何者かのために、破られていたというのである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人は熱鬧ねっとうの中をのがれて、ゆく春の静かな山路を福知山へ向って歩いた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰か、熱鬧ねっとう人渦ひとうずのうちから、その時綽空の輦を眼がけて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)