無愛想ぶあいそう)” の例文
この話は山方石之助やまがたいしのすけ君から十数年前に聴いた。山に住む者の無口になり、一見無愛想ぶあいそうになってしまうことは、多くの人が知っている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わたしはいつもむらにやってくる無愛想ぶあいそうな、あめりじいさんをおもして、どれほど、そのひとのほうがいいかしれないとおもいました。
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
Y中尉は手紙を持ったまま、だんだん軽蔑けいべつの色を浮べ出した。それから無愛想ぶあいそうにA中尉の顔を見、ひやかすように話しかけた。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうするとこれを聞いたこなたのきたな衣服なりの少年は、その眼鼻立めはなだちの悪く無い割には無愛想ぶあいそう薄淋うすさみしい顔に、いささか冷笑あざわらうようなわらいを現わした。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
まわりからくる体つきの愛嬌あいきょうで、ニコニコしているように見えたが、眼は決して笑っていなかったその眼の無愛想ぶあいそうをおぎなって、鼻が親しみぶかかった。
それではやらないかといえば不思議なほどはやって、門前市もんぜんいちをなす有様ありさまです。あんな無愛想ぶあいそうな人があれだけはやるのはやはり技術があるからだと思いました。
無題 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
きつい気のする有名な僧都そうずとか、僧正とかいうような人は、また一方では多忙でもあるがために、無愛想ぶあいそうなふうを見せて、質問したいことも躊躇ちゅうちょされるものであるし
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この名づけ親というのは、無愛想ぶあいそうな、孤独なじいさんで、生涯を、魚捕うおとりと葡萄畑ぶどうばたけで過ごしている。彼は誰をも愛していない。我慢がまんができるのは、にんじん一人きりだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
今日は荒田老もめずらしく上機嫌じょうきげんで、「わしはめしはたくさんです」などと無愛想ぶあいそうなことも言わず、自分からすすんで平木中佐をさそい、その席につらなったのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「何も考へてゐやしない。」と無愛想ぶあいそうに謂ツて、墨々まじ/\とお房の顏を見ると
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
あら、やに無愛想ぶあいそうだね。またあのんちゃんのことでも考えてるんだろ。
巴里の秋 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
最初に受け取った冷淡な無愛想ぶあいそうな手紙は、彼に苦しみを与えたはずだった。——(おそらく実際に与えたろう。)——しかし彼はそうだと認めたくなかった。そして子供らしい喜びをさえ感じた。
無愛想ぶあいそうなやつだ。買うからねだんを聞いているのだ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
看護婦は洋一の姿を見ると、ちょいとこびのある目礼をした。洋一はその看護婦にも、はっきり異性を感じながら、妙に無愛想ぶあいそう会釈えしゃくを返した。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いくらそのおじいさんが無愛想ぶあいそうでも、ずっとむかしからこのむらにくるので、まったくのかおなじみであったから、けっして他人たにんのような気持きもちがしなかった。
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その中で一番にがい顔をしたのは池辺三山君いけべさんざんくんであった。余が原稿を書いたと聞くや否や、たちまち余計な事だと叱りつけた。しかもその声はもっとも無愛想ぶあいそうな声であった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、時間の移るにつれ、だんだん無愛想ぶあいそうな看守に対する憎しみの深まるのを感じ出した。(僕はこの侮辱ぶじょくを受けた時に急に不快にならないことをいつも不思議に思っている。)
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
兄の調子は自分の予期した通り無愛想ぶあいそうであった。しかしそれは覚悟の前であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれど、わたしは、またこんな無愛想ぶあいそうなじいさんをたことがありません。
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
妙に無愛想ぶあいそうな一人の看守は時々こう云う控室へ来、少しも抑揚よくようのない声にちょうど面会の順に当った人々の番号を呼び上げて行った。が、僕はいつまで待っても、容易に番号を呼ばれなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
顔に似合わずすこぶる無愛想ぶあいそうである。長蔵さんは平気なもんで
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)