無性ぶしょう)” の例文
この時、阿Qはひじを丸出しにして(支那チョッキをじかに一枚著ている)無性ぶしょう臭い見すぼらしい風体で、お爺さんの前に立っていた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
まだ三十がらみの壮者だが、顔いちめんの青痣あおあざへもってきて赤いまだらひげ無性ぶしょうに生やし、ふさ付きの范陽はんよう笠を背にかけて、地色もわからぬ旅袍たびごろも
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんな無性ぶしょうなおさんどんでも決していきなり桶をネジの口へ当てて昨夜ゆうべの溜り水を使うような事はしない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
荻生さんが心配して忙しい郵便事務のすきをみて、わざわざ弥勒みろくまで出かけて行くと、清三はべつに変わったようなところもなく、いつも無性ぶしょうにしている髪もきれいに刈り込んで
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
わずかに手を解き、おとがいで襟を探って、無性ぶしょうらしくつまみ出した、指のつめの長く生伸はえのびたかと見えるのを、一つぶるぶるとって近づき、お伽話とぎばなしの絵に描いた外科医者というていで、おののく唇にかすかに見える
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
又作をくびり殺し、此のうちへ火をければ、又作は酒の上で喰い倒れて、独身者ひとりものゆえ無性ぶしょうにして火事を出して焼死やけしんだと、世間の人も思うだろうから、今宵こよい又作を殺して此のへ火をけようと
此方より手紙を出しても一向返事も寄越さず、多忙か病気か無性ぶしょうか、或は三者の合併かと存候。小生僻地に罷在まかりあり、楽しみとするところは東京俳友の消息に有之、何卒なにとぞ爾後じごは時々景気御報知被下度くだされたく候。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
二日も無性ぶしょうしていれば、あごにまばらな白いものがキラつく年だ。死に場所が大事だと思う。それにはこのお方の馬の口輪からはぐれないことだと思い極めたのである。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
阿Qは壁にむかって跪坐きざし、これも神威に打たれていたが、この時両手をついて無性ぶしょうらしく腰を上げ、いささかあわを食ったようなていでドギマギしながら、帯の間に煙管を挿し込み
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
それを妻君が無性ぶしょうだと外へ行って危険千万な弁当飯を買わなければならず、家へ帰って喉が渇くから、オイ直ぐに氷水を取って来いなんぞと最も不衛生的な氷水を飲むようになります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
着物を袖畳そでだゝみにして入れて置くものではないよ、ちゃんと畳んでお置きな、これはなんだえ、ナニ寝衣ねまきだとえ、相変らず無性ぶしょうをして丸めて置いてきたないねえ、此のひもは何だえ、虱紐しらみひもだとえ、きたないねえ
「こら! 御覧な、無性ぶしょうだねえ。おまえさん寡夫やもめかい」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは、無性ぶしょうをしないで、書く前に地理を踏んだ天恵てんけい賜物たまものだと思った。机のうえの構想ではえがけない想像が、しかもかなり自信をもって胸に描けてくるのだった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女が此家ここへ来るたびに、家の中から、無性ぶしょうな埃りが払われた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)