焙烙ほうろく)” の例文
近年倉敷に羽島窯が起り、よい雑器を試みます。浅口郡に大原窯おおはらがまがあって、くすりのない瓦焼で、土瓶とか焙烙ほうろくとか土鍋とか蛸壺たこつぼとかを作ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
神田佐久間町の焙烙ほうろく長屋のドンづまり。古井戸と長屋雪隠せっちんをまむかいにひかえ、雨水がどぶを谷川のような音をたてて流れる。風流といえば風流。
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それに比べると、夏の富士は、焙烙ほうろく色にあかッちゃけた焼けただれをき出しにした石山であるのに、この水々しさと若さは、どうしたものであろう。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
塗り立てて瓢箪形ひょうたんなりの池浅く、焙烙ほうろくる玉子の黄味に、朝夕を楽しく暮す金魚の世は、尾を振り立ててもぐるとも、起つ波に身をさらわるるうれいはない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蜂の子を一匹ずつ巣から、ピンセットで引っ張り出し、それをそのまま味醂、醤油、砂糖でからからに煮てもよし、塩にまぶして焙烙ほうろくで炒ってもいい。
採峰徘菌愚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
竹籬たけがきのあいだや軒下に寂しい火の光りがちらちらひらめいて、黒い人影や白い浴衣が薄暗いなかに動いていた。お時も焙烙ほうろく苧殻おがらを入れて庭の入り口に持ち出した。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その上を自動車や、電車や、人間などが、焙烙ほうろくの上の黒豆のように、パチパチと転げ廻った。
乳色の靄 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
五六軒先の荒物屋の溝板と溝板の上のバケツや焙烙ほうろくが鳴って十六七の男の子が飛出して来た。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
焙烙ほうろくで、豌豆えんどうをいるような絡繹らくえきたるさんざめき、能役者が笠を傾けて通る。若党を従えたお武家が往く。新造が来る。丁稚でっちが走る。犬がほえる。普化僧ふけそうが尺八を振り上げて犬を追っている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
河岸かしに舟が着くと、船頭の女房二、三人が、焙烙ほうろく胡麻ごまをいっている。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
牛乗りを承る者は、顔へ白粉を塗り額へ大の字を墨書し、裃を着し赤青紙張りの笠を破り、手に長い竹弓と蕪矢かぶらやを持つ。牛の口取りは持主で焙烙ほうろくを被るが式は社頭と当宿で祝言を述べるだけである。
また、豚の肝臓をもって飼養した味品まことに卑なる川鱒と生蝦の餌で育った淡味口に凉を呼ぶという川鱒とを並べ焙烙ほうろくの勝を求めたに対し、その仁は、豚の肝臓を餌にした方を指した。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
今いった黒釉のほかに、赤楽風あからくふう柄附えつき焙烙ほうろくを作る。また漢時代のものを想わせるような厨子ずしも作る。共に形がいい。特に強さや確かさのあるのは釜戸(くど)と呼ぶ五徳ごとくの類である。
現在の日本民窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
調練場の方ではどッと云うときの声が揚がった。焙烙ほうろく調練が始まったらしい。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
近江屋の隠居が自慢たらたらで腕をふるった腰の曲がったえびの跳ねている海老床の障子に、春は四月のうららかな陽が旱魃ひでりつづきの塵埃ほこりを見せて、焙烙ほうろくのように燃えさかっている午さがりのことだった。
平家方焙烙ほうろくのいる船を出し
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)