浮標うき)” の例文
見渡すかぎり、一面にあたまの海である。高くさし上げた腕の森が、波に半身を露はす浮標うきのやうに突出てゐる。跪いて祈る一大民衆だ。
さしあげた腕 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
一たん、波の谷底におし下げられたボートは、また不意に、ぶるぶると身をふるわしながら浮標うきのように浮び上って、波の背にたたき上げられた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
ヤン博士の垂らしている糸は、べらぼうに長い。もちろんひどい近眼の博士に、はるけき水面を浮きつ沈みつしている浮標うきなどが見えようはずがなかった。
軍用鮫 (新字新仮名) / 海野十三(著)
勢いで走りつづける船足は、かじのために右なり左なりに向け直される。同時に浮標うきの付いた配縄はいなわの一端が氷のような波の中にざぶんざぶんと投げこまれる。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それは、錨には、大きな浮標うきのついた、丈夫な索がしばりつけてあって、錨索が切れても、この浮標の索を引っぱって、錨をあげられるようにしてあるのだ。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
水の面の白い浮標うきの、今沈むかと氣が氣でない時も斯うであらう。我が敬慕に値する善良なる女教師山本孝子女史は、いつの間にかまた、パペ、サタン、を初めて居る。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
曳網の綱が三十五ひろ入っていたので、先ず網を手ぐり入れるものと思った所が、彼等は長い竿三本を縛りつけ、曳網綱の末端をこの急造浮標うきに結んで、海の中に投げ込んだ。
かえり見ると、安心して浮標うきを見詰めている。おおかた日露戦争にちろせんそうが済むまで見詰める気だろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
浮標うきの動くのをじっと眺めていたり、月のある夕方にボートに乗って、少年にがせ
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
さひはひ、沈沒ちんぼつ間際まぎわに、貴方あなたげてくださつた浮標うきにすがつて、なみのまに/\たゞよつてうちその翌朝よくあさになつてると、漫々まん/\たる大海原おほうなばらはる彼方かなたに、昨夜さくや海賊船かいぞくせんらしい一艘いつそうふね
釣好きらしいヘルメットの男は、そのまま水面の浮標うきの動きにじっと見入りました。
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
まつ正面の、ずつとむかうの方には、小さな赤い浮標うきがかすかに見えてゐました。
ぽつぽのお手帳 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
いとを垂れて魚のかかるを待っているだけのことで、岡目には如何にも馬鹿らしいことだろうが、本人に至ってはなかなか以て懸命の苦心、浮標うきをあてにするようだと誰しも言われたくないので
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
時にまたついと沈む浮標うきのやうなたよりなげな感情はなやんでゐるのだ
駱駝の瘤にまたがつて (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
日の暮のぼろ自動車にすくみゐつ赤き浮標うき見居り乗合を待ちて
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さし上げた腕の間から皆めいめいに上向うはむきの頭がみえる。海藻かいさう地衣こけがこの浮標うき垂下たれさがつてゐる。東から吹く風に、この髮の毛がふくらんで、おのづと拍子をとつて波動してゐる。
さしあげた腕 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
それは、昼に赤く見えてゐた、あの浮標うきの上にとぼるあかりでした。
ぽつぽのお手帳 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
海波かいは鳴咽おえつあか浮標うき、なかにばめる
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)