浩然こうぜん)” の例文
政談や誹謗ひぼうはやらないと規定している。密会ではない、公然の会だからである。気も浩然こうぜんと養おうという集まりだからである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう御難儀を遊ばしていらッしゃるんでげすから、港々におつき遊ばしたときはちっとは浩然こうぜんの気もお養いなさらずばお身体が続きますまい。
思無邪おもいよこしまなしであり、浩然こうぜんの気であり、涅槃ねはんであり天国である。忙中に閑ある余裕の態度であり、死生の境に立って認識をあやまらない心持ちである。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
矢張り一緒に卒業した従兄弟いとこの寛一君と二人がかりで番頭共にお手本を示す立場だから骨が折れる。神経衰弱にでもかからなければ浩然こうぜんの気は養えない。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
うちの小供があまり騒いで楽々昼寝の出来ない時や、あまり退屈で腹加減のよくない折などは、吾輩はいつでもここへ出て浩然こうぜんの気を養うのが例である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
コレヨリ(治ヲ)請フ者日ニ多シ。居ルコト二、三年すこぶる三径ノ資ヲ得タリ。たまたま唐人ガ僧院ノ詩ヲ読ミ帯雪松枝掛薜蘿ゆきをおぶるのしょうしへいらをかくトイフニ至ツテ浩然こうぜんトシテ山林ノ志アリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あたか孟子もうしの云いし浩然こうぜんの気に等しく、これを説明することはなはかたしと雖も、人にしていやしくもその気風品格の高尚なるものあるに非ざれば、才智伎倆ぎりょう如何いかんかかわらず
男児たる者がしんそこ浩然こうぜんの気をやしなえるというのはかの女性のごときをいて他にはないだろうな。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
陣営でさえこの調子であったから、浩然こうぜんの気を養うと称して、付近から遊女をかき集めて酒宴深更に及び、桃源の夢に耽っていた侍たちは、ほとんど半狂乱であった。
ほどよく浩然こうぜんの気を養いあそばしつつ、お昼食は三河島みかわしま村先の石川日向守ひゅうがのかみのお下屋敷、そこから川を越えて隅田村に渡り、大川筋を寺島村から水戸家のお下屋敷まで下って
剛勇、冷静、明智になるのだ、孟子もうし所謂いわゆる浩然こうぜんの気はへそを讃美した言葉だ、へそだ、へそだ、へそだ、おまえは試験場で頭がぐらぐらしたらふところから手を入れてしずかにへそをなでろ
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
青瓢箪あおびょうたんのような顔をしている青年ばかりこしらえちゃ、学問ができて思想が高尚になったって、なんの役にもたたん、ちと若い者は浩然こうぜんの気を養うぐらいの元気がなくっちゃいけませんなア
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ここに浩然こうぜんたる元気のやり場を求めて、思いきり楽しもうとする人気そのものに、少しも害悪のないのを認め、働く人たちの嬉々として晴れ渡った顔を見ると、お松はこのお祭の前途を祝福して
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
浩然こうぜんの気を養おう」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
浩然こうぜんの気を養うたい、あなた。どうですあなたがた。釣に行った事がありますか。面白いですよ釣は。大きな海の上を小舟で乗り廻わしてあるくのですからね」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
無住の山水に籍をおいて、武将生活を見きッてからの彼もすでに久しいものだが、浩然こうぜんと笑えば、なおその笑いの底にさびたる戦場声のおもかげはどこやらにある。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それぞれの流儀に浩然こうぜんの気を養うというのがその順序だったので、けれども右門はその他のすべての方面においては大々通であっても、この一郭ばかりはやや苦手でしたものでしたから
精神一度ひとたび定まるときは、その働きはただ人倫の区域のみにとどまらず、発しては社会交際の運動となり、言語応対の風采となり、浩然こうぜん外にあふれて、身外の万物恐るるに足るものなし。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「舟遊びは浩然こうぜんの気を養うからよろしい」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
したいな。わしが思わぬわざわいにって、洞白の仮面めんをたずねることもあのままになっておるが、とにかく、浩然こうぜんの気を養った上で、またいい分別もあろうというものだ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉はく、安土の信長へ向って、こう早飛脚を立てていた。そして一面には、士気を疲らせないために、時折、軍馬を休め、浩然こうぜんの気を養わせて、長期戦を期していた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久しぶりで、横川勘平よこかわかんぺいは、浩然こうぜんと、無聊ぶりょうを慰められた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
利家は、片目を燭にしばだたいて、浩然こうぜんと笑った。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだ。狩猟にでも行って、浩然こうぜんの気を養おう」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)