泥水どろみず)” の例文
すぐに白い泥水どろみずのようなものを飲まされて、むりやり口へゴム管を入れられ、ポンプみたような機械で、胃の中の物を吸い出された。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
先月からの雨に荒川あらかわがあふれたと見えて、川沿いの草木はみんな泥水どろみずをかむったままに干上がって一様に情けない灰色をしていた。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
房枝は、あっといって、自分の服をあらためてみたが、いいあんばいに、べつにどこにも、泥水どろみずがとんでいなかった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一八二三年以来、モンフェルメイュの宿屋はしだいに非運に傾いて、破産のふちへというほどではないが、多くの小さな負債の泥水どろみずの中に沈んでいった。
そして、ネズミたちがいってしまうと、はねから泥水どろみずをはらいおとそうとでもするように、からだをゆすぶりました。
がしかしその実泥水どろみずらなくとも泥水よりいっそう深きけがれに心の染まれるものが世には多くありはせぬか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
だが僕はそのために君らを憎みはしない。君らはそういう人間だ。よかったらそのままでいるがいい。そして泥水どろみずの中にえさを捜し回りたまえ。しかし僕は別れよう。
今ではひろびろとさえぎるものなく望まれる曇った空は、暗い杉や松の梢の間から仰ぎ見た時よりも、一段低く、一段重く、落ちかかるようににごった池の泥水どろみずを圧迫している。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
他所では馬に引かすすきを重そうに人間が引張って、牛か馬の様に泥水どろみずの中を踏み込み/\ひいて行く。労力ろうりょく其ものゝ画姿を見る様で、気の毒すぎて馬鹿〻〻しく、腹が立つ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
仕方なしに泥水どろみずの中へとびこむと、その上へ、あとから何十人という人がどんどんおちこんで、下のものはおしつけられておぼれてしまうし、上の方にいた人は黒こげになって
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
小えんの如きはその例じゃないか? 昔からのどかわいているものは、泥水どろみずでも飲むときまっている。小えんも若槻に囲われていなければ、浪花節語りとは出来なかったかも知れない。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
泥棒どろぼうのつける心配もない、風が吹こうが雨が降ろうが屋根が漏る心配も壁がこわれる心配もない、飢えては一わんの麦飯に舌鼓をうち、渇しては一杯の泥水どろみずにも甘露の思いをなす、いわゆる
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
三疋とも、杭穴の底の泥水どろみずの中にちてしまいました。
蛙のゴム靴 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
泥水どろみずすすりくさをかみ
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
土佐とさ高知こうち播磨屋橋はりまやばしのそばを高架電車で通りながら下のほうをのぞくと街路が上下二層にできていて堀川ほりかわ泥水どろみずが遠い底のほうに黒く光って見えた。
三斜晶系 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
心と体とを別に考うることはすでに身を売る時よりおこなわるる議論で、良家の子女しじょ泥水どろみずに入る時も、たとえからだ畜生ちくしょう同然になるも、心は親のため、主人のため
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
彼が戸口から出て、ダムの破壊箇所はかいかしょと反対の方向へ、二三歩走ったと思うと、庁舎は大きな音をたてて、決潰けっかいダムの下のさかまく泥水どろみずの中へ、がらがらと落ちていった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
沙金しゃきんを中に、雨雲のむらがるごとく、一団の殺気をこめて、朱雀大路すざくおおじへ押し出すと、みぞをあふれた泥水どろみずが、くぼ地くぼ地へ引かれるようにやみにまぎれて、どこへ行ったか、たちまちのうちに
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すぐさまその書物を手放して、卑しい連中のまん中を通りすぎた。あたかも、きたない水たまりの中にはいってびっくりしてる——しかも泥水どろみずのはね返りを少しも受けない——ねこのようなものだった。
とものほうでは引っ切りなしに測深機を投げて船あしをさぐっている。とうとう船が止まった。推進機でかきまぜた泥水どろみずが恐ろしく大きなうずを作って潮に流されて行く。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして彼は、いやというほど泥水どろみずをのまされた。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大津波が来るとひと息に洗い去られて生命財産ともに泥水どろみずの底に埋められるにきまっている場所でも繁華な市街が発達して何十万人の集団が利権の争闘に夢中になる。
災難雑考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)