泡沫あわ)” の例文
この管から彼は速に、二十乃至三十の泡沫あわを吹き出すのだが、それが空中を漂って行く有様は、管から紙片を吹き出すようである。
水へ向って射込んでも、矢は用をなさず、刺叉さすまたで掻き廻しても、投げやりほうりこんでも、笑うが如き泡沫あわが一面ぶつぶつ明滅するのみである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きり田川たがわの水を、ほのじろい、ざるき/\、泡沫あわを薄青くすくひ取つては、細帯ほそおびにつけたびくの中へ、ト腰をひねざまに、ざあと、光に照らして移し込む。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
願はくは恩惠めぐみ速かに汝等の良心の泡沫あわを消し、記憶の流れこれを傳ひて清く下るにいたらむことを 八八—九〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
銀の珠でも溶かしたように重く、鈍く輝く水の中では、微かに藻が揺れ、泡沫あわが立ちのぼります。肩にたれた髪から潮の薫りが流れ出して、足許には渚の桜貝が散りそうです。
ようか月の晩 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
男のささやきはおよそ四半刻はんときも続いた。奈尾の全神経はしびれたようになり、合歓木の幹にもたれた躯は地上から浮きあがって、泡沫あわのように空間へ消えてゆきそうに思えた。
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ハダカの石鹸をコスリ付けて泡沫あわを山のように盛り上げながら、女とは思えない乱暴さで無茶苦茶に引っ掻きまわしたあとから、断りもなしにザブザブと熱い湯を引っかけて
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼女は本当に都会の泡沫あわの中から現われた美しい蜉蝣かげろうですよ、ネネは、そのわずかな青春のうちに、最も多くの人から注目されたい、という、どの女にもあるその気持を、特に多分に
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
あたら帆村も、ここへ来て慎みを忘れたがために、折角糸子が提供しようという蠅男の秘密を聞く機会を失ってしまって、遂にこれまでの苦労を水の泡沫あわと化してしまうのだろうか。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
青々と茂っている羊歯しだの間から矢車草の白い花が潮に浮かんだ泡沫あわのようにそこにもここにも見えているのも高原雀が幾百羽となく木の間を縫ってけているのも、鼻を刺す高い木のかおり
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
水のおもての泡沫あわと知れど
秋 なげかひ (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
死力をめて、起上ろうとすると、その渦が、風で、ごうと巻いて、きながら乱るると見れば、計知はかりしられぬ高さからさっと大滝を揺落ゆりおとすように、泡沫あわとも、しぶきとも、粉とも、灰とも
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
死力しりよくめて、起上おきあがらうとすると、うづが、かぜで、ぐわうといて、きながらみだるゝとれば、計知はかりしられぬたかさからさつ大瀧おほだき搖落ゆりおとすやうに、泡沫あわとも、しぶきとも、こなとも、はひとも
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)