武士ものゝふ)” の例文
跡にて口善惡くちさがなき女房共は、少將殿こそ深山木みやまぎの中の楊梅、足助殿あすけどのこそ枯野かれの小松こまつ、何れ花もも有る武士ものゝふよなどと言い合へりける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
事の原由よしを尋ぬるに、旗野の先住に、何某なにがしとかやひし武士ものゝふのありけるが、あやまてることありて改易となり、やしきを追はれて国境くにざかひよりぞ放たれし。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
フラア・トムマーゾの燃ゆるまこととそのふさはしきことばとは我を動かしてかく大いなる武士ものゝふきそめしめ 一四二—一四四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
どつしりと突き出てゐる煖爐の上には、甲冑をつけて白馬の側に立つた武士ものゝふの肖像が掛つて居り、それと向ひ合つた側の壁には兜と楯と槍が掛つてゐた。
御心底を仰せ上げられましたら、そのうちには御機嫌も直り、讒言の輩を御成敗なさるでござりましょうと、よう/\に申しなだめて、武士ものゝふ共に輿の前後を取り巻かせ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
見てうたがはらせと言ながらと立上り床の間に飾置かざりおきたる破果やれはて具足櫃ぐそくびつふたかい遣り除けそこさぐつて一包のかね取出とりいだ二個ふたりに示し爰に百兩あるからは必ず心配しんぱい無用なりと浪人しても流石は武士ものゝふ用意の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
武士ものゝふの魂とむらふや音たてゝ枯草山にひたしぶくあめ
城山城趾にて (旧字旧仮名) / 桜間中庸(著)
武士ものゝふのけんくゎに後家ごけ二人ふたり出来でき
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
敵ある方に、向ふ武士ものゝふ
従軍行 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こゝろめたる武士ものゝふ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
君の御馬前に天晴あつぱれ勇士の名をあらはして討死うちじにすべき武士ものゝふが、何處に二つの命ありて、歌舞優樂の遊にすさめる所存の程こそ知られね。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
戦場に於いてさま/″\な艱難かんなんを忍びますことは武士ものゝふの常でござりますから、左程骨身にはこたえませぬが、荒々しいことや凄じいことより知らぬ者が蘭麝らんじゃのかおりなまめかしい御前へ出ましては
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
時頼ほどの武士ものゝふも物の哀れに向はんやいばなしと見ゆるぞ。左衞門、今は嘆きても及ばぬ事、予に於いて聊か憾みなし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)