標本へうほん)” の例文
元来僕は何ごとにも執着しふぢやくの乏しい性質である。就中なかんづく蒐集しうしふと云ふことには小学校にかよつてゐた頃、昆虫の標本へうほんを集めた以外に未嘗いまだかつて熱中したことはない。
蒐書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして老先生らうせんせい權藏ごんざうげた言葉ことば、あれが其註解そのちゆうかいです、そして權藏ごんざう其人そのひともつ先生せんせい實物教育じつぶつけういく標本へうほんとしたのです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
あまりにさけんでさけのためにはなあかくなつた獨逸ドイツ陸軍士官りくぐんしくわんや、其他そのほか美人びじん標本へうほんともいふ伊太利イタリー女俳優をんなはいゆうや、いろ無暗むやみくろ印度インドへん大富豪おほがねもち船客等せんきやくらあひだ立交たちまじらつて
打越金彌は何を考へたか、屏風びやうぶの奧、更に重い坂戸を開けて、隣りの部屋に姿を隱しました。其處は亡くなつた小峰凉庵の實驗室で、簡單な標本へうほんや道具や、おびたゞしい藥品などが用意されてあつたのです。
トヾの結局つまり博物館はくぶつくわん乾物ひもの標本へうほんのこすかなくば路頭ろとういぬはらこやすが学者がくしやとしての功名こうみやう手柄てがらなりと愚痴ぐちこぼ似而非えせナツシユは勿論もちろん白痴こけのドンづまりなれど、さるにても笑止せうしなるはこれ沙汰さた
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
僕は如何いかなる時代でも、蒐集癖しうしふへきと云ふものを持つたことはない。もし持つたことがあるとすれば、年少時代に昆虫類の標本へうほんを集めたこと位であらう。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)