楊弓ようきゅう)” の例文
いずれにしても、矢がすりお金といえば神明第一の売っ子で、この店はいつも大繁昌、楊弓ようきゅうの音の絶える間がないくらいでした。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まりなげ、楊弓ようきゅうもあり踊りもあれば、三味線もあり、いろいろと楽しませ夕方帰りには、山ほど土産をそれぞれにくれました。
男は晩方になると近所の洗湯へ入って額や鼻頭はなさきを光らせて帰って来たが、夜は寄席よせ入りをしたり、公園の矢場へ入って、楊弓ようきゅうを引いたりした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かんざしを取って授けつつ)楊弓ようきゅうを射るように——くぎを打って呪詛のろうのは、一念の届くのに、三月みつき五月いつつき、三ねん、五年、日と月とこよみを待たねばなりません。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それにもあまり興が乗らず、去って豆蔵まめぞうのぞいたり、奥山の楊弓ようきゅうを素通りしたりしているうちに、日が全く暮れて、兵馬は約束の五重塔の下へ来てみると
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「榛野さあのように大事にして貰われれば、こっちとらも奥山へ行くけえど、ぜにう払うて楊弓ようきゅうを引いても、ろくに話もしてくれんけえ、ほんつまらんいのう」
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あるひは琴を弾じを描きまたは桜の枝に結び付くべき短冊たんざくに歌書けるものあり。あるひは矢を指にして楊弓ようきゅうもてあそびあるひはおかめめんかぶりて戯るるものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「いやいや、決してやめろとは言いませんが、同じ遊びでも、楊弓ようきゅうなど、どうでしょうねえ。」
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「へえ、いたします。弓と申しても楊弓ようきゅうですが、五月、九月の結改けっかいの会には、わざわざ江戸へ出かけて行き、昨年などは、百五十本を金貝かながいの目録を取ったということでございます」
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
雑俳ざっぱい楊弓ようきゅう香道こうどうから碁将棋まで、何一つ暗からぬ才人で、五年前先代から身上しんしょうを譲られた時は、あの粋様すいさまでは丸屋の大身代も三年とはつまいと言われたのを、不思議に減らしもせず
それが、厄介なことに楊弓ようきゅう、釣と、女道楽の片手間にやります。
さて、笛吹——は、これも町で買った楊弓ようきゅう仕立の竹に、雀が針がねをつたわって、くちばしの鈴を、チン、カラカラカラカラカラ、チン、カラカラと飛ぶ玩弄品おもちゃを、膝について、鼻の下の伸びた顔でいる。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雑俳ざっぱい楊弓ようきゅう藤八拳とうはちけんから、お茶も香道も器用一方でかじり廻ると、とうとう底抜けの女道楽に落ち込み、札差の株を何万両かに売り払って、吉原に小判の雨を降らせるという大通だいつう気取りの狂態でした。
手をいたの、一人で大手を振るもあり、笑い興ずるぞめきにまじって、トンカチリと楊弓ようきゅう聞え、諸白もろはくかんするごとの煙、両側のひさしめて、処柄ところがらとて春霞はるがすみ、神風に靉靆たなびく風情、の影も深く、浅く
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)