さりとて西行法師の真似びを追うて安らげる自分でないし、また周囲の桎梏は、そんな逃げなどゆるさぬ時代とも知っていた。
久しく桎梏に苦しんで来た黒人も今では合衆国民として白人同等の地位に置かれ、嬉々として泰平の恩沢に浴するに至った。
結局唯物史観の源頭たるマルクス自身の始めの要求にして最後の期待は、唯物の桎梏から人間性への解放であることを知るに難くないであろう。
より政略の桎梏の少い下級武士や庶民生活の中では、女性の生活が、文盲ながら幾らか明るさ、健全さを持っていたことを、狂言は語っている。
人間性を信じ、人間に対して絶望をしない私達もいかんともし難い桎梏の前に、これを不可抗の運命とさえ思わなければならなくなってしまった。