ぼく)” の例文
と、一ぼくの柳の木の陰から、お高祖頭巾こそずきんをかぶった一人の女が、不意に姿をあらわしまして、わたしの方へ歩いてまいりましたが
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
千年の風雨も化力かりょくをくわうることができず、むろん人間の手もいらず、一ぼくそうもおいたたぬ、ゴツゴツたる石の原を半里あまりあるいた。
河口湖 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
遠恥、名はきよう、号は小蓮せうれん、鈴木氏、しうしてぼくと云つた。所謂木芙蓉ぼくふようの子である。仲彜は越後国茨曾根いばらそねの人関根氏であるらしい。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
五尺ばかり前にすらりと、立直たちなおる後姿、もすそを籠めた草の茂り、近く緑に、遠く浅葱あさぎに、日の色を隈取くまどる他に、一ぼくのありて長く影を倒すにあらず。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宮方の、三ぼくそう、みな死に枯れた——と都人はいった。とまれ宮方勢も、士気はすさび、内からはしばしば内応者が出、危機のきざしをあらわしていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「先生これァいつお求めになりました。ぼくの太さといい枝ぶりといい実に見事な盆栽で御座いますな。」
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
幾本かの大きなぼくが庭によこたわって仕事を待っている。それを一尺ほどに切って轆轤ろくろにかける。凡て生木である。見ていると松のしぶきが強い香りを立てて吾々の顔を打つではないか。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
水戸さまは鼈甲べっこうの笠を冠ってお通いなされたと云いますが、伽羅は大した事で、容易に我々は拝見が出来んくらい貴い物で、一ぼくみょうと申しまして、仙台の柴舟しばふね、細川の初音はつねに大内の白梅しらうめ
「いいぼくですねえ。どうしたんです。」
早春 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
立枯れぼく
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
幸いに可忌いまわしい坊主の影は、公園の一ぼく一草をも妨げず。また……人の往来ゆきかうさえほとんどない。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幸ひに可忌いまわしい坊主の影は、公園の一ぼくそうをもさまたげず。又……人の往来ゆきかふさへほとんどない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)