有合ありあ)” の例文
お葉は折柄おりからの雨をしのぐ為に、有合ありあう獣の皮を頭から引被ひっかぶって、口には日頃信ずる御祖師様おそしさまの題目を唱えながら、跫音あしおとぬすんで忍び出た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
島田の奴が馬を引張ひっぱって来たので、仕方がないから有合ありあいのものを典じて始末をつけたが、その穴埋あなうめをしなけりゃならん。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
しかし事実はもう殆ど明白である。慶三は夜具を蹴飛けとばし足音荒く二階から駈け下りるが否や、有合ありあう下駄をつッかけて物をも云わず戸外おもてへ飛出そうとした。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さてこそと身をひそひそかに家の外に出で、背戸せとの方に廻りて見れば、正しく狐にて首を流し元の穴に入れ後足あとあし爪立つまたてていたり。有合ありあわせたる棒をもてこれを打ち殺したり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
むら/\と起りました悪心から致して、有合ありあ定木じょうぎをもって清水助右衞門を打殺うちころす。
彼女かれは慌てて又もや座敷へ引返ひっかえして、有合ありあ燐寸まっち我袂わがたもとに入れた。更に見廻すと、とこわきには客の紙入かみいれが遺してあって、人はまだ誰も帰って来なかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
物干竿を掛直かけなおしたかみさんは有合ありあ雑布ぞうきんで赤ぎれのした足の裏をき拭き此度こんどは遠慮なくがらりと襖を明けて顔を出した。眉毛まゆげの薄い目尻の下った平顔ひらがおの年は三十二、三。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二人も不憫ふびんに思い、蔵前くらまえの座敷に有合ありあ違棚ちがいだな葡萄酒ぶどうしゅとコップを取出して、両人ふたりの前へ差出さしだせば、涙ながらにおいさが飲んで重二郎へしまするを見て、丈助はよろこび、にやりと笑いながら。
お葉はゆるんだ帯を結び直して、店口みせぐち有合ありあう下駄を突ッ掛けると、お清はいよいよあやぶんで又抑留ひきとめた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
カチリと電燈をじる響と共に、きいろい光が唐紙からかみの隙間にさす。先生はのそのそ置炬燵から次の間へ這出はいだして有合ありあ長煙管ながギセルで二、三ぷく煙草を吸いつつ、余念もなくお妾の化粧する様子を眺めた。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
有合ありあう枯枝や落葉を拾って釜の下を焚付け、三人寄って夕飯の支度をしているうち、一人が枯枝を拾う為に背後うしろの木かげへ分入わけいると、ここに大きな池があって、三羽の鴨が岸の浅瀬に降りている。