曳込ひきこ)” の例文
頼んであった料理屋の板前が、車に今日の料理を積せて曳込ひきこんで来た頃には、羽織袴はおりはかまの世話焼が、そっち行き此方こっちいきして、家中が急に色めき立って来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
貞之進は門内へ曳込ひきこもうとする車を両三歩手前で下り、賃銭を払ったついでに会費と名刺とを取り出して一緒につかみ、それを玄関口に立って居た幹事に渡して
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
ものの半時ばかりつと、同じ腕車くるまは、とおりの方からいきおいよく茶畑を走って、草深の町へ曳込ひきこんで来た。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わし毎日々々炭車すみイくるまに積んで青山へきやんすが、押原横町おしはらよこちょうのお組屋敷へは車を曳込ひきこむ事が出来やしねえから、横町へ車を待たして置いて、彼所あすこから七八町のなげい間すみイ担いできやんすのだが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
くるまは、きふ石磈路いしころみちに、がた/\とおとててやますそ曳込ひきこんだが、ものの半町はんちやうもなしに、あがぐちの、草深くさぶかけはしさかるのであるから、だまつてても其處そこまつた。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その辺の見計いはしておかなかった、くだんの赤煉瓦と横窓との間の路地は、入口が狭いので、どうしても借家まで屋台を曳込ひきこむことが出来ないので、そのまま夜一夜よひとよ置いたために
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつもよりはや洋燈ランプをと思う処へ、大音寺前の方からさかん曳込ひきこんで来る乗込客、今度は五六台、引続いて三台、四台、しばらくは引きも切らず、がッがッ、轟々ごうごうという音に、地鳴じなりまじえて
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)