晒布さらし)” の例文
水車は晒布さらしを掛けたように、氷りついて止まっていた。その小屋のひさしの下に人影がかがんでいるのだ、石のうえに腰かけて。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は其日、晒布さらしの袖無を着て帯も締めず、黒股引に草履を穿いて、額の汗を腕で拭き/\、新家の門と筋向になつた或駄菓子屋の店先に立つてゐた。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あとで教員れんは村長や学務委員といっしょに広い講堂にテーブルを集めて、役場から持って来た白の晒布さらしをその上に敷いて、人数だけの椅子をそのまわりに寄せた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
入口に近い机の上では、七条君や下村君やその他僕が名を知らない卒業生諸君が、寄附の浴衣ゆかたやら手ぬぐいやら晒布さらしやら浅草紙やらを、罹災民に分配する準備に忙しい。
水の三日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すこし暑いと肌ぬぎで銀ぐさりをかけて、紺の腹掛と、真白い晒布さらしの腹巻、トンボほどな小さな丁字髷ちょんまげが、滑りそうな頭へ、じ鉢巻で、負けない気でも年は年だけに
角隱しを取つて晒布さらしを顏に掛けてありますが、血にまみれた花嫁衣裝もそのまゝ、祝言の部屋から持つて來たらしい燭臺しよくだいの百目蝋燭らふそくに左右から晴れがましく照らし出されて
衆人みんなの前で牛を呑んで見せたり、観世縒で人間や牛馬を作って、それを生かして耕作させたり、一丈の晒布さらしに身を変じて、大名屋敷へ忍び込んだり、上杉謙信の寝所へ忍び
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
疲れ切った身体からだを起して室内に散らばっているガーゼ、スポンジ、脱脂綿なぞを一つ残らず拾い集めて、文房具、化粧品等と一緒に新しい晒布さらしに包み込んで、繃帯で厳重にくくり上げてしまいました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
討入装束うちいりしょうぞくのままで、手には大身の槍をげていた。もっとも槍の穂先ほさきは、明方から白い晒布さらしで巻いて隠してはあるが——
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は其日、晒布さらしの袖無を着て帶も締めず、黒股引に草履を穿いて、額の汗を腕で拭き拭き、新家の門と筋向になつた或駄菓子屋の店先に立つてゐた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
角隠しを取って晒布さらしを顔に掛けてありますが、血にまみれた花嫁衣裳もそのまま、祝言の部屋から持って来たらしい燭台しょくだいの百目蝋燭ろうそくに左右から晴れがましく照らし出されて
そこに無造作に寝台ねだい卓子テーブルとが置いてある。食堂と言つても、いくらか大きい僧房に二つ三つ卓子を配置してそれに晒布さらしをかけただけである。そしてそこにゐる人達が面白い。
山のホテル (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
『それと、片口注かたくち焼酎しょうちゅうをなみなみいで、晒布さらしと一緒に、鷹小屋の前へ持って行ってやれ。——外へ置いてくればいいのだぞ、中へは這入るなよ』
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内儀の時代の死體は、たくみに始末して、床の上に寢かしてありました。が、顏へ掛けた晒布さらしを取つて、たつた一と眼で平次はその死に樣の尋常でないことを知つたのです。
饗応役きょうおうやくの家臣たちは勿論のこと、君侯生涯の大命である。肌着にはけがれのない晒布さらしち、腹巻には天の加護かごを祈って、神札まもりを秘めている者もあった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妙に苦い口調で、利助は半面晒布さらしで包んだ顔をねじ向けました。
新しい晒布さらしの肌着でひきまっているこの体というものが、どう思ってみても今死ぬものとは思われない。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
死顏に掛けた晒布さらしを取つて、八五郎の聲は曇ります。
晒布さらし売りの女がクスクスと笑った途端に、あたりに腰を掛けている旅の者が、声をこらえて吹きだした。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は死骸に近寄つて、顏の晒布さらしを取りました。
心得のある藤左衛門も、さすがに、晒布さらしの吊手にすがったまま、三日目は、眼を閉じたきりだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は死骸に近寄って、顔の晒布さらしを取りました。
そう云ったのは、西洋股引ももひきに陣羽織を着て、大刀を晒布さらしの腰帯に差している、台場隊の幕兵だった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(試合の当日は、何も支度はり申さぬが新しき晒布さらしの肌着と下帯だけは整えておきたく思います)
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大阪から南都なんとへ出る街道口、そこには、伊勢や鳥羽へ立つ旅人の見送りや、生駒いこま浴湯詣よくゆもうで、奈良の晒布さらし売り、河内の木綿もめん屋、深江の菅笠すげがさ売りの女などが、茶屋に休んで
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何気なく覗いてみると、武蔵はもう寝床をぬけて、月の光の下に沐浴もくよくを済まし、宵にできた真っ白な晒布さらしの肌着を着、腹巻をしめ、その上に、いつもの衣服をまとっているのであった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仕事場に出る時の身支度を見ても、いかめしさと云ったらない。晒布さらし襦袢じゆばんだけは毎日洗ったものを着せてくれとお珠へ云ったのでも分る。——出る朝をいつも死ぬ日と心に決めているらしい。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
「へい。ようく心得ておりまする。こんな御用は船師ふなし一代のうちにもないことだと思いまして、今朝はもう暗いうちから起きて、水垢離みずごりをかぶり、新しい晒布さらしで下っ腹を巻いて待っておりますんで」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)