摺剥すりむ)” の例文
何にも無い、畳の摺剥すりむけたのがじめじめと、蒸れ湿ったそのまだらが、陰と明るみに、黄色に鼠に、雑多の虫螻むしけらいて出た形に見える。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ゆかに穴がいていて、気をつけないと、縁の下へ落ちる拍子ひょうしに、向脛むこうずね摺剥すりむくだけが、普通の往来より悪いぐらいのものである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仕方が無いから直吉を指ヶ谷町の親分のところへやり、直ぐ來てもらつて、私も手傳つて死骸をおろしましたが、その時こんな摺剥すりむきを拵へてしまひました。
大勢おほぜいつてたかつておれを三つも四つものめしアがつて、揚句あげくのはてに突飛つきとばされたが、悪いところに石があつたので、ひざ摺剥すりむいて血が大層たいそう出るからのう……。
下駄の鼻緒はなおが切れる。その上俯向きに前へ倒れて、膝頭ひざがしら摺剥すりむくと云う騒ぎです。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ア、痛ッ、かおの皮が摺剥すりむけてしまいます、どうか御勘弁なすって下さいまし」
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
虫蝕むしくいと、雨染あまじみと、摺剥すりむけたので分らぬが、上に、業平なりひらと小町のようなのが対向さしむかいで、前に土器かわらけを控えると、万歳烏帽子まんざいえぼしが五人ばかり、ずらりと拝伏した処が描いてある。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
叔母さんがはなしを付けにまいると、此方の奉公人が出て、強談ゆすりに来たとか云って、御門の外へほうり出したので、顔を摺剥すりむき、叔母さんが大変におこって花魁に焚き付けたのが始まりで
「畜生、こんなに向う脛を摺剥すりむいてしまった」
ぴしゃアりと提灯を切られた時にわっちきもを潰して、あの建部裏のどぶにおっこッちまった、い塩梅に少し摺剥すりむいたばかりでたんと負傷けがはしないが、泥ぼっけえ、寒くて仕方がねえから
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)