挿話そうわ)” の例文
旧字:插話
為に——長久手の醜態しゅうたいは、かれとしても、後々まで、身に沁みぬいたこととみえ、ずっと、後年の話にはなるが、こんな挿話そうわまで残っている。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ていよくさばかれたり、とゞのつまりは「物も云はでやみにけり」とか、「わづらはしとて男やみにけり」とか云う風な終りを告げている挿話そうわが随分ある。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
病名は壊血症というものだそうだが、その病気の直接の原因になったと云われる、いかにもリルケの最後らしい、美しい挿話そうわを、私はつい最近読んだ。
雉子日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それはわばこの物語の発端ほったんす所の、一挿話そうわに相違ないのだから、ここに簡単にしるして置くが、その時、舟は例の常盤木の蔭暗き岸辺に漂っていた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おれはこの挿話そうわを書きながら、お君さんのサンティマンタリスムに微笑を禁じ得ないのは事実である。が、おれの微笑の中には、寸毫すんごうも悪意は含まれていない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
妙に理窟りくつっぽくなったけれども、でも、まあ、こんなかっぽれの小さい挿話そうわでも、君の詩の修行にいて何か「新しい発明」にでも役立ってくれたら、と思って
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
是がまた一つの東方の特徴を、見つけ出す手がかりになるのではないかと思う。日本のいわゆる竜宮入り話に、ほぼ例外なく附随する一挿話そうわがまず注意せられる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
水戸みとの武田耕雲斎に思われ、大川の涼み船の中で白刃はくじんにとりまかれたという挿話そうわももっている。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
お島はそう言って小野田にも話したが、そこにお島の身のうえについて、何か色っぽい挿話そうわがありそうに、感の鈍い小野田にも想像されるほど、彼等はお島と狎々なれなれしい口のき方をしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
このおもしろい小品的挿話そうわはマルコ伝にだけあります。
残酷な挿話そうわ
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
このことについては、青年時代秀吉とのあいだに一挿話そうわのこしているが、いまはそれをいっているいとまはない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その最初の喧嘩けんかの際、汐田は卒倒せんばかりに興奮して、しまいに、滴々たらたらと鼻血を流したのであるが、そのような愚直な挿話そうわさえ、年若い私の胸を異様にとどろかせたものだ。
列車 (新字新仮名) / 太宰治(著)
今まで心づかずにいたけれども、あの「神代巻」の海幸山幸うみさちやまさちの物語なども、やはりこの系統の一つの挿話そうわの、あまりにも有名になったものということができそうである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いやでも応でも、宇宙は刻々にかわるという法則に立つ易学を生んだ隣邦りんぽう中国では、さすがに世の転変てんぺんには馴れぬいていたものか、古来盗児とうじに関する挿話そうわは今の日本にも負けないほど多い。
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)