挽子ひきこ)” の例文
中には叔父も資本の幾分を卸して、車を五、六十台ばかり持って、挽子ひきこに貸し車をしている安という物馴れた男もいて真先に働いた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
人力車だって、少し威勢のいい挽子ひきこなれば馬車鉄道を見失わない様に、あとをつけるなんぞ、訳なかったものでございますよ。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いくさだ、まるで戦だね。だが、何だ、帳場の親方も来りゃ、挽子ひきこも手伝って、あかりめえにゃ縁の下の洋燈ランプこわれまで掃出した。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして挽子ひきこは手綱をどこへ抱へこんだのかと思はせるやうに腕組みをしながら、その崖上の路を地勢に沿つてひよいと見えなくなつたり、又現れたりしながら通つて行くのである。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
儀作はその昔からの酒造家……この地方きっての財産家である古谷傅兵衛へはは若い頃から馬車の挽子ひきことして出入りしていた関係もあって、言わば特別扱いを受けてきたのでもある。
荒蕪地 (新字新仮名) / 犬田卯(著)
芝神明前俥宿手鳥てどり浅吉の所有にして挽子ひきこは市田勘次というものなり。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
づる大黒傘だいこくがさうへゆきつもるといふもなきばかりすみやかに立歸たちかへりて出入でいり車宿くるまやど名殘なごりなく出拂ではらひて挽子ひきこ一人ひとりをりませねばおどくさまながらと女房にようばう口上こうじやうそのまゝのかへごとらばなにとせんおたくにおあんじはあるまじきに明早朝みやうさうてう御歸館ごきくわんとなされよなど親切しんせつめられるれど左樣さうもならず
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)