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押移
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おしうつ
髮は
束髮に、
白いリボンを
大きく
掛けたが、
美子も
喜いちやんも
爲なる
折から、
當人何の
氣もなしに
世とゝもに
押移つたものらしい。が、
天の
爲せる
下町の
娘風は、
件の
髮が
廂に
見えぬ。
ぞ
取結ばせける夫より夫婦
間も
睦しく暮しけるが
幾程もなく妻は
懷妊なし嘉傳次は
外に
家業もなき事なれば
手跡の指南なし
傍ら
膏藥など
煉て
賣ける月日早くも
押移り
十月滿て頃は寶永二年
戌三月十五日の
夜子の
刻に
安産し玉の如き男子
出生しける嘉傳次夫婦が
悦び大方ならず
程なく
七夜にも成りければ名を