押上おしあげ)” の例文
柳島まで行くには及ばねえと点頭うなずきながら、尻をはしょって麻裏草履をつっかけ、幸兵衞夫婦の跡を追って押上おしあげかたへ駈出しました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その日は法恩寺橋から押上おしあげの方へ切れた堀割の川筋へ行って、朝から竿をおろしていると、鯉はめったに当らないが、鰻やなまずが面白いように釣れる。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「親分に言い付かった通り、押上おしあげ笛辰ふえたつの家を三日見張っていると、今日昼頃どこかの小僧が使いに来ました」
ここに亀戸かめいど押上おしあげたま堀切ほりきりかねふち四木よつぎから新宿にいじゅく金町かなまちなどへ行く乗合自動車が駐る。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私はよく手文庫の中から私の家族の写真を取り出しては、これはお父さんの、これはお母さんの、これは押上おしあげの伯父さんのなどと、皆の前で一つずつ得意そうに説明をする。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
もちの着き居し実例など語りて之に和し、脚の疲れを忘れて押上おしあげ通りを過ぎ、業平にて相分れしが、別るゝに臨みて、老人、『その内に是非お遊びに』と言ひかけしが、更に改めて
釣好隠居の懺悔 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
うすもやのような暮気があたりを包んで、押上おしあげ柳島やなぎしまの空に夕映ゆうばえの余光がたゆたっていたのもつかのま、まず平河山法恩寺をはじめとして近くに真成しんせい大法たいほう霊山れいざん本法ほんぽう永隆えいりゅう本仏ほんぶつなど寺が多い
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
虚無僧の話をするついでに、半七老人は虚無僧と普通の僧とにからんだ一場の探偵物語を聞かせてくれたことがある。老人は先ず本所押上おしあげ村について説明した。
蟠「押上おしあげの金座の役人に元手前が剣術を教えたことがある、其処そこけばどうにかなるから一緒にこう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
長吉は帽子を取って軽く礼をしたがそのまま、けるように早足はやあしもと来た押上おしあげの方へ歩いて行った。同時に蘿月の姿は雑草の若芽におおわれた川向うの土手の陰にかくれた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この二人がお角に頼まれて、島田の死骸を入れた早桶をかついで、押上おしあげ辺の寺へ送り込むつもりで、日の暮れがたに出て行くと、あいにくに横網の河岸で多吉に出逢った。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
長吉ちやうきちは帽子を取つて軽く礼をしたがのまゝ、けるやうに早足はやあしもと来た押上おしあげはうへ歩いて行つた。同時に蘿月らげつ姿すがたは雑草の若芽わかめおほはれた川むかうの土手どてかげにかくれた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
午後ひるすぎから亀井戸かめいど竜眼寺りゅうがんじの書院で俳諧はいかい運座うんざがあるというので、蘿月らげつはその日の午前に訪ねて来た長吉と茶漬ちゃづけをすましたのち小梅こうめ住居すまいから押上おしあげ堀割ほりわり柳島やなぎしまの方へと連れだって話しながら歩いた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
午後ひるすぎから亀井戸かめゐど龍眼寺りゆうがんじ書院しよゐん俳諧はいかい運座うんざがあるといふので、蘿月らげつはその日の午前にたづねて来た長吉ちやうきち茶漬ちやづけをすましたのち小梅こうめ住居すまひから押上おしあげ堀割ほりわり柳島やなぎしまはうへと連れだつて話しながら歩いた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)