手引てびき)” の例文
剖刀外科には手引てびきがない、手心がわからぬ、道具がない、手が廻らぬ、どうの候のと言うて、この久しい間、うまいこと逃げ居ったわ。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
らば、然らば、を双方で言つてしまつたから、論は無い、後は斫合きりあひだ。揉合もみあひ押合つた末は、玄明の手引てびきがあるので将門の方が利を得た。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
殘らず呼出よびいだし吟味に及びけれ共皆々一かうに知らざるむね申ければ主税之助は憤怒いきどほり是れ必らず腰元こしもとお島の手引てびきにて藤五郎兄弟を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
三人寄ってお線香せんこ上げて、「この観音様の手引てびきやったら、あて死んだかて幸福や」と、私がそないいいましたら
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
めくらにして七十八歳のおきなは、手引てびきをもれざるなり。手引をも伴れざる七十八歳のめくらの翁は、親不知おやしらずの沖を越ゆべき船に乗りたるなり。衆人ひとびとはその無法なるにおどろけり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
途中、街道の古びた草紙屋で見つけて買い求めたのは、一冊の懐中絵図ふところえず——その頃、まま版行された道中細見さいけん、あるいは、御府外名所手引てびきなどのたぐいでありましょう。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はるかの岨道ほそみちを乞食てい盲目めくらの男と手引てびき女が行くのが見えた。自動車は追い迫った。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
もし其の事が向うの親父おやじさまにでも知れた日には、志丈が手引てびきした憎い奴め、斬って仕舞う、坊主首ぼうずッくびち落す、といわれては僕も困るから、実はあれぎり参りもせんでいたところ
それが手引てびきとなって、東京、横浜、横須賀なぞでは、たちまち一面に火災がおこり、相模、伊豆の海岸が地震とともにつなみをかぶりなぞして、全部で、くずれたおれたいえが五万六千
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
呼付よびつけ藤五郎兄弟は其方が手引てびきして佐十郎郷右衞門の兩人にぬすませしに相違有るまじ眞直まつすぐに申せと責掛せめかけ若し此事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして潞王に手引てびきしてもらって、手取り千六百金、四百金を承奉に贈ることにして、二千金で売付けた。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
手引てびきとし金子きんす才覺さいかく致させんには調達てうだつすべき事もあらんと云にまかつひに其儀にけつ密々みつ/\用意して天一坊と大膳の兩人は長洞ながほら村を出立し信州下諏訪へとおもむきたりやうやく遠藤屋彌次六方へちやく案内あんないこひ先年の事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)