所在しょざい)” の例文
うっかりどこにでも出そうものなら、たちまち敵国の空中スパイに発見されて、こっちの新しい地下都市の所在しょざいめられてしまう。
夫人の声は決定的な辛辣味しんらつみを帯びていました。それで女中等も所在しょざいない苦笑で相手するより仕方がないようでありました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何処どこか近くの家で百万遍ひゃくまんべんの念仏を称え始める声が、ふと物哀れに耳についた。蘿月はたった一人で所在しょざいがない。退屈でもある。薄淋うすさびしい心持もする。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いかにも所在しょざいなさそうな、それでいて何となく落着きのない眼をして、教員室を出たりはいったりしていた。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
美的百姓は木臼きうすに腰かけたまゝ、所在しょざいなさに手近にある大麦の穂を摘んでは、掌でもみってかじって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
戦争中国内の有様ありさまさっすれば所在しょざい不平士族ふへいしぞくは日夜、けんして官軍のいきおい、利ならずと見るときは蹶起けっきただちに政府にこうせんとし、すでにその用意ようい着手ちゃくしゅしたるものもあり。
壁にもたれて、いかにも所在しょざいなさそうに、鼻の孔をほじったり無精髯を抜いたりしている。
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
権利をことにし、骨肉の縁を異にし、貧富ひんぷを異にし、教育を異にし、理財りざい活計かっけいおもむきを異にし、風俗ふうぞく習慣しゅうかんを異にする者なれば、おのずからまたその栄誉の所在しょざいも異なり、利害の所関しょかんも異ならざるを得ず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
だがどうしたものだか十秒たっても二十秒過ぎても、誰も出てこない。僕は仕方なく、室を飛び出すと、ミチ子の所在しょざいを知るために、事務室へ出かけた。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この一間ひとまの置炬燵に猫を膝にしながら、所在しょざいなげに生欠伸なまあくびをかみしめる時であるのだ。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いよいよあやしいかぎりの超人間X号は、今いずこにひそんでいるのだろうか。ダム爆破ばくは以来、ここに十三日になるが、彼の所在しょざいはさっぱり知られていないのだった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「いまも電話をかけましたが、青竜王やつ所在しょざいが不明です。その前は十日間も行方が分らなかった」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ことに、余り客の立てんでいない昼湯ひるゆの、あの長閑のどか雰囲気ふんいきは、彼のよう所在しょざいのない人間が、贅沢ぜいたくねむりからめたのちの体の惰気だきを、そのまま運んでゆくのに最も適した場所であった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
でも、ドイツ官憲の、懸命な捜索そうさくから、モール博士の所在しょざいがわかり、私は、身分をかくして博士の門下となり、盗まれた秘密の研究を、とりかえそうと、くるしい努力をしていたのだ。
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)