懸値かけね)” の例文
おしてお目通りに出たわけですが。……そもそも、曹操が大兵百万と号している数には、だいぶ懸値かけねがあるものと自分は観ております
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして腹のなかでは、もしかそれに少しでも懸値かけねがあつたにしても、そんな事はあとから直ぐ弁償出来るとでも思つてるらしかつた。
……とひまに、なんの、清水谷しみづだにまでけばだけれど、えうするに不精ぶしやうなので、うちながらきたいのが懸値かけねのないところである。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けだしこの山神は専ら森林を司り、その祭日には自分の顔色と名に因んで、赤木に猿たに猿滑りと、一種の木を三様に懸値かけねして国勢調査すと伝えたのだ。
それからチベット人はなかなか懸値かけねをいう。始めから一定の値段で売るなどということはラサ府ではどこの店にもない。必ず懸値をいうにきまって居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これはことにひどい地方でありましょうが、大体において男子の三分の二が、公民籍から除かれたということは、決して懸値かけねのないところでありましょう。
「ほほほほ、なんですよ今ごろ、これが三社前の姐さん、当り矢のお艶の懸値かけねのないところ。地金じがねをごらんなすったら、愛想もこそも尽きましたろうねえ」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これなどは秘密を誓約した人々の抜け荷だから、若干の懸値かけねがあっても吟味をすることが困難である。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
懸値かけねはない。びっくりいたしたか。なかなかの美人じゃ。別して膝の肉づきは格別じゃったのう」
「もう直ぐだ。駅から十分さ。この辺の駅から十分は大抵懸値かけねがあるんだが、僕のところは正味十分だ。尤もこんなにブラ/\歩いちゃ十五分ぐらいかゝるかも知れない」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
当人の公言するごとくいつわりなき事実ではあるが、いまだに成効せいこう曙光しょこうを拝まないと云って、さも苦しそうな声を出して見せるうちには、少なくとも五割方の懸値かけねこもっていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「買って行った人の家から、晩方にはおじさまの家に直ぐ逃げてもどるわ、あたいは一疋で三百円が懸値かけねのないおねだんだから、逃げ出してはまた別の金魚屋に売られて、またおじさまの処に戻って来るわ。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
この無感情が、大悟たいごの無表現ででもあったならえらいものであるが、彼の場合は、現れたとおりの、懸値かけねなしであるからまことにあわれというほかはない。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アはベーツ説に四十フィートに達するそうだが、ピゾン・レチクラツスは三十フィートまで長ずというから『本草』の懸値かけねゆるすべしで、実に東半球最大の蛇だ。
その商売も誠実にやるのでなく前にいうた通り懸値かけねをいったり人を欺いたりすることが多い。どうもチベット一般の人民はしごく狡猾こうかつな気風に養成されて居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
春挙氏は言ひ値通りにあたひを払つて石を引取つた。実をいふと、石屋の主人あるじは値切られる積りで、幾らか懸値かけねを言つたらしかつたが、画家ゑかきはそんな事に頓着しなかつた。
無責任な言には似るが、それが懸値かけねのないとこじゃよ
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
懸値かけねはありません」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)