憂鬱いううつ)” の例文
しかしその電燈でんとうひかりらされた夕刊ゆふかん紙面しめん見渡みわたしても、やはりわたくし憂鬱いううつなぐさむべく世間せけんあまりに平凡へいぼん出來事できごとばかりでつてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
平次は近頃すつかり憂鬱いううつでした。お紋のところからは三日に一度位づつ誘ひ出しの手紙が來ますが、あの晩の縮尻しくじり以來家に籠つて考へ事ばかりして居たのです。
それがたまたたづねて来たいたづらな酒飲みの友達が、彼等の知らぬ間に亀の子を庭の草なかに放してなくなしてしまつた。彼は云ひやうのない憂鬱いううつな溜息を感じた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
私の勇氣は、くじけていつた。いつものしひたげられた氣持や懷疑心や孤獨な憂鬱いううつが、くづれゆく憤激の餘燼よじんに、めと落ちかゝつた。みんなは、私が惡いと云ふ。多分、さうかも知れない。
それがしの顔色がんしよくすくなからず憂鬱いううつになつたとえて、博士はかせが、かたかるけるやうにして、「大丈夫だいぢやうぶですよ、ついてますよ。」熟々つら/\あんずれば、狂言きやうげんではあるまいし、如何いか名医めいいといつても
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ミケロアンゼロの憂鬱いううつはわれを去らずけり桜花さくら陰影かげは疲れてぞ見ゆれ
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
石炭に琥珀まじれり憂鬱いううつのなかにも光る歌のまじれり
日本の憂鬱いううつな十月のよる彼岸あなた
北原白秋氏の肖像 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
六兵衞の捨鉢な氣持のうちには、妙に平次を憂鬱いううつにさせる調子があります。
しきりにこみ上げて來る不安と憂鬱いううつに、お角は思はず居ずまひを直しました。
お糸といふのは此間行方不明になつた姉のお清と共に、日本橋の二人小町と言はれた美人ですが、自分の身に降りかゝる恐ろしい危難を豫知したものか、近頃は一日増しに憂鬱いううつになつて行きます。
斯んな殺生なことをしなければならぬ八五郎をすつかり憂鬱いううつにします。