甲冑の影や剣槍の光は見えても、決して、一人の使客を恫喝しているものではなかった。虚勢らしい物々しさなども感じられない。
一方、竜之助は同じく抜き放って、これは気合もなく恫喝もなく、縦一文字に引いた一流の太刀筋、久しぶりで「音無しの構え」を見た。
「恫喝」したら兵士は逃散したが指揮官だけは決死の形相で道をはばんでいる。今度は朝鮮語のできるフェロン師の番だ。
今では貴様を監獄にぶち込むぞという恫喝も出来なくなってしまった。彼に残されているものは方々ゆすり歩いて文なしでも酒の飲める口だけである。
無頼な職人の恫喝が、その声を聞くたびに彼の気持を落ちつけていた。それを云いながら彼には、なすべきことがひとりでに目の前に描かれて来るのだ。