恫喝どうかつ)” の例文
甲冑の影や剣槍の光は見えても、決して、一人の使客を恫喝どうかつしているものではなかった。虚勢らしい物々しさなども感じられない。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一方、竜之助は同じく抜き放って、これは気合もなく恫喝どうかつもなく、縦一文字に引いた一流の太刀筋、久しぶりで「音無しの構え」を見た。
恫喝どうかつ」したら兵士は逃散したが指揮官だけは決死の形相で道をはばんでいる。今度は朝鮮語のできるフェロン師の番だ。
撥陵遠征隊 (新字新仮名) / 服部之総(著)
今では貴様を監獄にぶち込むぞという恫喝どうかつも出来なくなってしまった。彼に残されているものは方々ゆすり歩いて文なしでも酒の飲める口だけである。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
無頼な職人の恫喝どうかつが、その声を聞くたびに彼の気持を落ちつけていた。それを云いながら彼には、なすべきことがひとりでに目の前に描かれて来るのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
まだ残っている六本の鏑矢かぶらやもろとも、すべての事実を雄弁に物語るかのごとくちゃんと立てかけてあったものでしたから、名人のすばらしい恫喝どうかつが下ったのは当然!
なぐれと、衆口一斉熱罵ねつば恫喝どうかつを極めたる、思い思いの叫声は、雑音意味も無きひびきとなりて、騒然としてかまびすしく、あわや身の上ぞと見る眼あやうき、ただ単身みひとつなる看護員は
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、それより早く、荒田老の、さびをふくんだ、恫喝どうかつするような声がきこえた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
当時の開国論者の多くは真の開国論者に非ず、ただ敵愾てきがいの気を失し、外人の恫喝どうかつ辟易へきえきし、文弱、偸安とうあん苟且こうしょの流にして、而しての鎖国論者中にこそ、かえって敵愾、有為ゆうい活溌かっぱつの徒あり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
是を地になげうって弟の氏照に向い、一片の文書で天下の北条を恫喝どうかつするとは片腹痛い、兵力で来るなら平の維盛の二の舞で、秀吉など水鳥の羽音を聞いただけで潰走かいそうするだろうと豪語したと云う。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「謀反を企らんでおられるからじゃ!」始めて恫喝どうかつを試みた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
恫喝どうかつ代行——人間でなければ彼は何者ぞ?
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
曹操の人物を見るに及んでも、その軍隊の教練を見ても、事大主義で恫喝どうかつ的で、私はいたずらに、反感をそそられるばかりでした。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大道へ武士の魂をほうり出して、飲代のみしろにでもありつこうとする代物しろもののことだから、恫喝どうかつは利いても、腕は知れたものだろうとの予想が外れて、悠然として此方こっちのかかるのを待っているてい
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なぐれと、衆口一斉熱罵ねつば恫喝どうかつを極めたる、思ひ思ひの叫声は、雑音意味もなき響となりて、騒然としてかまびすしく、あはや身の上ぞと見る眼危き、唯単身みひとつなる看護員は、冷々然として椅子にりつ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
憎むべき恫喝どうかつ
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
家僕の恫喝どうかつに会って下手人を出したとあっては天下のあざけり、そのような前例をひらくことはまかりならん。さらば待て。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人が動いている時と、騒いでいる時は、人間がその最も弱点を暴露した時なんだが、人間はかえって、充実と沈黙を怖れないで、活動と躁狂、宣伝とカモフラージュとに恫喝どうかつされる。笑止!
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
めん恫喝どうかつ、一面柔軟、いつも対高氏の段になると一そう見得張る心理にかられるのもじつに妙なほどである。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恫喝どうかつと暴力のもとに従わせ、そちは抱えている乳呑みのててなし子いとしさに、以来、心にもなく刑部のしいたげに耐えつつ、その子を養うて来たものとある……。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
などとあらゆる恫喝どうかつ好餌こうじたずさえて、浅井、朝倉、武田、北畠などの使者が、半兵衛を自国へ引き入れにやって来たが、半兵衛はそのどれへも、同じ笑いをもって
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きょうの秀吉の進撃ぶりを見れば、その予告は決して一場のたわむれでも恫喝どうかつでもなかったことが今思い当る。彼は本気に光秀とじきの太刀打ちをせんと望んでいる血相だった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このばばの、年がいもない虚勢と、恫喝どうかつするやまいは、今なおまないものとみえる。——が相手はその手に馴れているものらしく、闇をうごかして、微かに肩をゆすぶった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ鎌倉の御用ときかされ、また、陀羅尼院だらにいんに滞在中の徴税使や、国府役人の恫喝どうかつに会って
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)