恐慌きょうこう)” の例文
しかし、痛手の急性の現われは何といっても、この春財界を襲った未曾有みぞう金融きんゆう恐慌きょうこうで、花どきの終り頃からモラトリアムが施行しこうされた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「人間ひょう」だけでも充分な上に、今度は本物の猛獣までが野放しになっているとわかっては、浅草人種の恐慌きょうこうは察するにあまりがあった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
経済地の恐慌きょうこうは、不景気よりも何よりも戦争の跫音あしおとだった。——足弱の避難につづいて、堺の財貨は、日々、堺の外へ搬出はんしゅつされて行った。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると彼女は激しい恐慌きょうこう嫌悪けんおとの表情をしたので、彼はびっくりしてしまった。それからはもうクリストフの名前は口に出されなかった。
吹きまくる大暴風雨のような恐慌きょうこうの最中に、又してもこの脅威挑戦きょういちょうせん——忌中だが、こんどはじぶんの前に現れたのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
真相がそとへもれたらしく、関係者たちの根強い団結にもかかわらず、恐慌きょうこうはこれ以上おさえがたい形勢だった。
学校当事者は入学志願者がなくて恐慌きょうこうを来した。中学校長から小学校長へ鄭重を極めた依頼状が廻った。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もとより火を消す必要もなく、また放火者が近づいて来たわけでもなかったのであるが、こうして我々は全市を揺り動かしている恐慌きょうこうにたちまちにして感染したのである。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
人は気楽なもの、腹の中にてかかる恐慌きょうこうを起すとも知らず、平生へいぜい胃吉や腸蔵を虐使ぎゃくしするにれけん。遠慮もなく会釈えしゃくもなく上の方よりドシドシ食物しょくもつを腹の中へ詰め込みきたる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この四月以来市場しじょうには、前代未聞ぜんだいみもんだと云う恐慌きょうこうが来ている。現に賢造の店などでも、かなり手広くやっていた、ある大阪の同業者が突然破産したために、最近も代払だいばらいの厄に遇った。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
日露開戦の当初にもまたあるいは同じ困難に陥りはせぬかという危惧きぐからして、当時の事を覚えている文学者仲間には少からぬ恐慌きょうこうき起し、額をあつめた者もなきにしもあらずであったろう。
それは、いわばぼくの恐慌きょうこうが吐き散らした無意味な悲鳴でしかないのだ。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
ほかからいどみかける必要はない。恐慌きょうこうが始まる。ざわめきが起こる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
正直に恐慌きょうこう以来の自家の財政のり繰りを述べ、しかし、断然たる切り捨てによって小ぢんまりした陣形じんけいを立直すことが出来
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
徳川家康のさかいへも、ほとんど見さかいなきすがたで侵攻を開始し、まさに、天下再乱の恐慌きょうこうを思う民衆の予想はあたっているかとも思われるばかりであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十人まで首にされて愈々恐慌きょうこうきたした残りの番士たちは、この上は源助町にたよって身を守るよりほか仕方がない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すると、西涼一帯に、いろいろな謡言ようげん流布るふされて、州民は、恐慌きょうこうを起した。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)