急立せきた)” の例文
急立せきたつる『へいへい宜しうござりまする。それでは奥様しばらくここに。私はお先へ参つて御様子を』『ああさうして』と。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「旦那様、決してあなた、勿体もったいない、お急立せきたて申しますわけではないのでござりますが、もし、お宿はおきまり遊ばしていらっしゃいますかい。」
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唯車上で身を揉んで、無暗むやみに車夫を急立せきたてた。車夫が何だか腹を立てて言ったが、何を言っているのか、分らない。唯無暗むやみ急立せきたてるばかりだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「行きましょう行きましょう。こんな所にぐずぐずしていられやしない」お島はふるえあがるようにして小野田を急立せきたてた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
母の大病直ぐ帰るようにと急立せきたてられて、思わず帰宅つかまつりました、ところが案外の大病、母の看護に心を奪われ、思わず今日こんにちまで日を送りましたる次第
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
または環境からして危機をはらみ来る予感に襲われてでもいるためでしょうか、この無上の陶酔のうちに在って、わたくしは何か急立せきたてられ、詰め寄せられている不安の感じを除きようもありません。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
満枝はやや急立せきたちぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
後から後からと他の学科が急立せきたてるから、狼狽あわてて片端かたはしから及第のおまじないの御符ごふうつもり鵜呑うのみにして、そうして試験が済むと、直ぐ吐出してケロリと忘れて了う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
口々に急立せきたてらるるせわしさに、三人四人の下女おんなは居たれど、我も客間へ用聞きにゆく事もありしに。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
急立せきたつ胸を押鎮おししずめ、急ぎ宅へ帰って宅の者を見届につかわしましたる所、以前にいや増す友之助の大難、最早棄置すておき難しと心得、早速蟠龍軒の屋敷へ駈付け、只管ひたすら詫入り
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「十一時頃だったろう。着くと直ぐ、連れて帰ると言うから、お島さんが此方こっちへ来ている話をすると、それじゃわしが一人で行って連れて来るといって、急立せきたつもんだからな」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
が、お話の不思議さ、気が気でないで急立せきたちますよ、貴辺は余り落着いておいでなさる。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翌日朝はやくから、お島はぐずぐずしている小野田を急立せきたてて家を捜しに出た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
脱心ぬかりたりと心急立せきたち、本郷のとおりへ駈出でて、東西を見渡せば、一町ばかりさきに立ちて、日蔭を明神坂の方へ、急ぎ足に歩み行く後姿うしろつきはその者なれば、遠く離れて見失わじと、裏長屋の近道をくぐりて
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
急立せきたてられ、多助おえいの両人は恥かしそうに坐っている所へ、太左衞門は酒を持って来て、まア嫁ッ子からと云われた時は、何というべきこと岩間いわま清水しみず結び染めて、深き恵みに感じつゝ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
急立せきたてられまして、恒太郎は余儀なく親父の心を休めるために
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)