御母おっか)” の例文
「あいつも一所なんだろう。本当を御いい。いえば御母おっかさんが好いものを上げるから御いい。あの女も行ったんだろう。そうだろう」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あの時王子の御父おとっさんは、家へ帰って来るとお島は隅田川すみだがわへ流してしまったと云って御母おっかさんに話したと云うことは、お前も忘れちゃいないはずだ」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いずれ乃公の方からお前の御母おっかさんの処へ沙汰さたをして、悪いようにはしないから
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
余は日記をぴしゃりとたたいてこれだ! と叫んだ。御母おっかさんが嫁々と口癖のように云うのは無理はない。これを読んでいるからだ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あの地面も、今はどうなっているんだか。あの御母おっかさんの生きているうちは、まあ私の手にはわたらないね」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
御母おっかさんも心配していなさるだろうよ」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その次に「強い風だ。いよいよこれから死にに行く。たまあたってたおれるまで旗を振って進むつもりだ。御母おっかさんは、寒いだろう」
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ふん、御父おとっさんや御母おっかさんに、私のことなんか解るものですか。彼奴あいつ等は寄ってたかって私を好いようにしようと思っているんだ」お島はぷりぷりしてつぶやきながら出ていった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女なら御母おっかさんか知らん。余は無頓着むとんじゃくの性質で女の服装などはいっこう不案内だが、御母さんは大抵黒繻子くろじゅすの帯をしめている。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「うん所天は陸軍中尉さ。結婚してまだ一年にならんのさ。僕は通夜つやにも行き葬式の供にも立ったが——その夫人の御母おっかさんが泣いてね——」
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それで結構です、ねえ甲野さん。君にも御母おっかさんだ。家にいて面倒を見て上げるがいい。糸公にもよく話しておくから」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは内幸町と違って、この御母おっかさんの実の弟に当る男だそうで、一種の贅沢屋ぜいたくやのように敬太郎けいたろうは須永から聞いていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おや、御母おっかさん」とななめな身体を柱から離す。振り返った眼つきにはうれいの影さえもない。の女と謎の女は互に顔を見合した。実の親子である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「だってむこうで世話をするのが厭だって云うんじゃありませんか。世話は出来ない、財産はやらない。それじゃ御母おっかさんをどうするつもりなんです」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この間も原の御母おっかさんが来て、まああなたほど気楽な方はない、いつ来て見ても万年青おもとの葉ばかり丹念に洗っているってね。真逆まさかそうでも無いんですけれども
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あなたが御爺さん御婆さんだと思っていらっしゃる方は、本当はあなたの御父おとっさんと御母おっかさんなのですよ。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御母おっかさんがあまり可愛かわいがり過ぎて表へ遊びに出さないせいだと、出入りの女髪結おんなかみゆいが評した事がある。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あなた、顔の色が大変悪いようですがどうかなさりゃしませんか」と御母おっかさんが逆捻さかねじを喰わせる。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それなら君の未来の妻君の御母おっかさんの御眼鏡おめがね人撰じんせんあずかった婆さんだからたしかなもんだろう」
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あいつはかたきだよ。御母おっかさんにも御前にも讐だよ。骨をにしても仇討かたきうちをしなくっちゃ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母はその時微笑しながら、「心配しないでも好いよ。御母おっかさんがいくらでも御金を出して上げるから」と云ってくれた。私は大変うれしかった。それで安心してまたすやすや寝てしまった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
裏は御母おっかさんや、御祖母おばあさんが張物はりものをする所である。よしが洗濯をする所である。暮になると向鉢巻むこうはちまきの男がうすかついで来て、もちく所である。それから漬菜つけなに塩を振ってたるへ詰込む所である。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
高柳君は巻紙を出して、今度は故里ふるさと御母おっかさんの所へ手紙を書き始めた。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこへ長唄ながうたの好きだとかいう御母おっかさんが時々出て来て、すべっこいくせにアクセントの強い言葉で、舌触したざわりの好い愛嬌あいきょうを振りかけてくれる折などは、昔から重詰じゅうづめにして蔵の二階へしまっておいたものを
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御母おっかさんは何にも云わないけれども、どこかにこわいところがある」
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うちの婆さんは、あなたの御母おっかさんを知ってるんだってね」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御父おとっさんや御母おっかさんが生きて御出だったらさぞ御喜びだろう
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御母おっかさんだけでもあれば結構だ」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)