彩色いろどり)” の例文
白いもの花やかに彩色いろどりして恥の面を塗り隠し、野心深い夫に倚添よりそひ、がけにある坂路をつたつて、舟に乗るべきところへ下りて行つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「おれは素人しろうとで、こんな物の眼利きは出来ねえが、彩色いろどりといい、木目もくめといい、どう見ても拵え物じゃあねえらしい。こりゃあ確かに本物だ」
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
拾ひ上げて見ると、それは子供の玩具おもちや——ろくろ細工に彩色いろどりをした兎、しかもその兎には、少しばかり血さへ附いて居るではありませんか。
描かれつつある人の肖像は、この彩色いろどりの目を乱す間にある。描かれつつある人は、突き当りの正面に団扇うちわをかざして立った。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若い望に充ちた声や叫び声は何所の隅にも聞えない。自転車、人力車、彩色いろどりした配達車、そんなものは一輛も見当らぬ。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
特に世の常の巌の色はただ一色にしておかしからぬに、ここのはすべての黒きが中に白くして赤き流れ斑の入りて彩色いろどりをなせる、いとおもしろし。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
のぞくまでの事はない。中でも目に立った、落着いて花やかな彩色いろどり花瓶はながめ一具ひとつ、まだ飾直しもしないと見えて、周囲一尺、すぽりと穴のあいたようになっているのだから。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土地のふくらみやなだらかな線や——苔やヒースの花や、花の咲いた芝や、きら/\したわらびや、色の柔らかい花崗岩みかげいは等で山の背や峽谷に與へられてゐる荒い彩色いろどりを眺めて私の眼は樂しんだ。
普通の寺によくある斯の宗教画は大抵模倣うつしの模倣で、戯曲しばゐがゝりの配置くみあはせとか、無意味な彩色いろどりとか、又は熱帯の自然と何の関係も無いやうな背景とか
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
幕の前を見ると、真中に太鼓たいこえてあった。その太鼓には緑や金や赤の美しい彩色いろどりほどこされてあった。そうして薄くて丸いわくの中に入れてあった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御面おんおもては天女にひとしい。彩色いろどりはない。八寸ばかりのほのぐらい、が活けるが如き木彫きぼりである。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まずどうするとお思いなさる、……後で聞くとこの蝋燭の絵は、そのおんなが、ひまさえあれば、自分で剳青ほりもののように縫針で彫って、彩色いろどりをするんだそうで。それは見事でございます。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と三吉は言ってみたが、かつて橋本の家の土蔵の二階でふるい日記を読んだことのある彼には、この洒落しゃらくと放縦とで無理に彩色いろどりしてみせたような達雄の家出を想像し得るように思った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ゑがかれつゝある人の肖像は、此彩色いろどりみだあひだにある。ゑがかれつゝある人は、突き当りの正面に団扇をかざして立つた。ゑがく男は丸いをぐるりとかへして、調色板パレツトつた儘、三四郎に向つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)