張店はりみせ)” の例文
トントン/\とあがるをすががきのうちから見て、あゝ来て呉れたなと嬉しく飛立つようですが、他の張店はりみせしている娼妓の手前もありますので
市場にはそれぞれ張店はりみせをして、青物、肉類、麦焦むぎこがし、乳、バタ、布類及び羊毛の布類を列べて、一切此市ここで交易商売が行なわれるのであります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
うちへ帰ってもあの年紀としで毎晩々々機織はたおりの透見をしたり、糸取場をのぞいたり、のそりのそりうようにして歩行あるいちゃ、五宿の宿場女郎の張店はりみせを両側ね
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勿論、張店はりみせはしていないし、燈火ともしびの洩れるのさえ遠慮がちに、ペンという音さえ洩れて来ないのである。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吉原大籬おおまがきの遊女もボンネットをかぶり、十八世紀風のひだの多い洋服を着て椅子にりかかって張店はりみせをしたのを、見に連れてゆかれたのを、私はかすかに覚えている。
里の市が流して行く笛の音が長く尻を引いて、張店はりみせにもやや雑談はなし途断とぎれる時分となッた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
おんなたちは張店はりみせをしていて、客はそれを見て選ぶということは、話に聞いて知っていたが、深喜は妓たちを見もしなかったし、そのときはもう妓などはどっちでもよくなっていた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたしだって張店はりみせのおばさんみたように、こんなしつっこい真似まねはしたくはないんですけれど、そうして上げなければあなたのおためにはならないわけがあるんですから、こうしてあげるのよ
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なかちやうにはビーヤホールが出来て、「秋信先通ず両行の灯影」といふやうな町の眺めの調和が破られ、張店はりみせがなくなつて五丁町ごちやうまちは薄暗く、土手に人力車の数の少くなつた事が際立つて目についた。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「ええ、驚かしちゃあ不可いけねえ、張店はりみせ遊女おいらんに時刻を聞くのと、十五日すぎに日をいうなあ、大の禁物だ。年代記にも野暮の骨頂としてございますな。しかも今年はうるうがねえ。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なかちょうにはビーヤホールが出来て、「秋信まず通ず両行の燈影」というような町の眺めの調和が破られ、張店はりみせがなくなって五丁町ごちょうまちは薄暗く、土手に人力車の数の少くなった事が際立って目についた。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ところがさ、商売柄、ぴかぴかきらきらで、くるわ張店はりみせ硝子張がらすばりの、竜宮づくりで輝かそうていったのが、むかし六郷様の裏門へぶつかったほど、一棟、真暗まっくらじゃありませんか。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしは若い女達が、其の雇主の命令に従って、其の顔と其の姿とを、或は店先、或は街上に曝すことを恥とも思わず、中には往々得意らしいのを見て、公娼の張店はりみせが復興したような思をなした。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)