なか)” の例文
場所は、稲荷いなり町の遊廓くるわの裏だった。お蔦は自前芸妓じまえげいしゃとして、なかの大坂屋とか、山の春帆楼しゅんぱんろうや風月などを出先にかせいでいるのである。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遣ってくれと言うから、なかいて来たのに不思議はありますまいとすましたもんです。議論をしたっておッつかない。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「徳寿さん。寒いね。べらぼうに降るじゃあねえか。おまえにゃあなかで二、三度厄介になったことがあったっけ。それ、このあいだも近江屋の二階でよ」
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
表徳は御免をこうむなかへ往ってチョン/\格子か何かで自腹遊びをする積りで御免を被って師匠に逢おうと思ってると、此処で出会でっくわすなんざア不思議でしょう
なかへはいる以上は、遊ぶと決まっているじゃねえか。おれとて、石や木じゃねえんだからな」
上杉家の国家老、千坂兵部ちさかひょうぶは、茶屋の若主人や、なかから送ってきた女たちの小提灯こぢょうちんにかこまれて、ひょろりと、手拍子に
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お時さん。いけませんよ。きょうはこれからなかにお約束があるんですから、まあ堪忍しておくんなさいよ」
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だがねかて子息むすこさんでございますが、此の頃足を近くなかへどん/\と花魁おいらんを買いに往っても、若旦那が惚れて何うのうのと云う方ではない、たゞうかれにきなさるが、ほんの保養で
外はもうやがて丑満うしみつにも近い刻限だというのに、一歩大門をなかへはいると、さすがは東国第一の妖化ようか咲き競う色町だけがものはあって、艶語えんご、弦歌、ゆらめくあかり、脂粉の香に織り交ざりながら
久しぶりのお天気だし、すずしいし、紋着もんつきで散歩もおかしなものだけれども、ちょうどい。なかまで歩行あるいて、とうちを出る時には思ったんだが、時間が遅れたから、茶屋の角で直ぐに腕車くるまをそう言ってね。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女親のお才が死ぬと、怠け者で飲んだくれな紋日の虎は、家財をあらかた博奕ばくちでハタいて、お綱をなかへ売ろうとした。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こっちへ来たらば、一度はお訪ね申そうと思いながら、いつも御無沙汰をしていました。八橋に聞きましたら、この頃はちっともなかの方へもお出でがないそうで……」
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
へえわたくしは、へ……なか幇間ほうかんでございまして、櫻川正孝と申しまするもので、若旦那様には種々いろ/\御贔屓を戴きましたから、うにお見舞に上りませんければなりませんのでございますが
お才の名は、それからまもなく、桐佐きりさのたそや行燈あんどんから隠れて、なかの馴染みな人を相手に、薗八節そのはちぶしの女師匠と変った。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でも、たとえ捨てるほどな金があった日も、養父へみつごうと思ったことは一度もなかった。ただ、不愍ふびんなのは、お三輪と乙吉と——なかへ売られたもう一人の義理の妹。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぼくの収入がやや確定してきたので、母もなかのお針さん通いを止め、父も体のよい日は、横丁の隠居みたいに、近所の碁会所ごかいしょへ出かけたりして、この所まあまあ、家計は小康を得たようなものだった。
「河岸を代えて、なかの入口のお茶屋に休んでいらっしゃいます」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)