度重たびかさな)” の例文
是非もなく旧句をおもいいだしてせめふさぐことも、やがて度重たびかさなるにつれ、過ぎにし年月、下町のかなたこなたに佗住わびずまいして、朝夕の湯帰りに見てすぎし町のさま
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それが毎日のように度重たびかさなると段々だんだん判然はっきり見える。姿見のない処に、自分の顔が映るようで、向うが影か、自分が影か、何とも言えない心細い、さびしい気がしたのだそうです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
忍び/\に逢うことも度重たびかさなり、今ではもう恥かしいのも打忘れ、公然おおぴらで逢い引を致しますゆえ、人のつまに掛ることも度々あり、おかめは何うか丹治と一つになりたいが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
次の年にも三回という風に度重たびかさなって行くと、不思議なことには雪の結晶が段々大きく見えて来て、それに硝子細工ガラスざいくか何かのように勝手にいじまわすことが出来るようになって来た。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
二人は酒量なきにかかわらず、町々の料理屋に出入いでいりし、またしばしば吉原に遊んだ。そして借財が出来ると、親戚しんせき故旧をしてつぐのわしめ、度重たびかさなって償う道がふさがると、跡をくらましてしまう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
度重たびかさなるにつれて、別に理由わけもなく互に声でもかけ合って見たいような気になっていた。
向島 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
追々おひ/\馴染なじみ度重たびかさなると、へい、朝顔あさがほはな打沈ぶちしづめたやうに、ゑり咽喉のどいろわかつて、くちひやうはらぬけれど、目附めつきなりひたひつきなり、押魂消おつたまげ別嬪べつぴんが、過般中いつかぢゆうから、おな時分じぶんに、わしかほはせると
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)