幽谷ゆうこく)” の例文
幽谷ゆうこく翁なども一時この説に惑ひて死期を早められたりと聞けり、とにかく勲位官名あるために惑はさるる人も多きにやあらん。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そんな大木のあるのはけだ深山しんざんであろう、幽谷ゆうこくでなければならぬ。ことにこれは飛騨山ひだやまからまわして来たのであることを聞いて居た。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あゆとか、ごりとか、いわなとか、そういった深い幽谷ゆうこくに産する魚類が常に生かしてあって、しかも、それが安かった。
鮎の食い方 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
見なれている幽谷ゆうこくのしらべをつくる松柏しょうはくたぐいは、少しも経之に常日頃つねひごろのしたしい風景にならずに、どこか、素っ気ない他処よその庭を見るようなはなれた気持であった。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そうかたくいましめられた上、老父と少年は翌日、酒をたずさえて、南山へ行きました。幽谷ゆうこくをさまようこと五、六里、果たして一樹の下に、碁を打っている二仙がいました。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の今までいた所は北向きの湿っぽいにおいのする汚いへやでした。食物くいものも室相応そうおうに粗末でした。私の家へ引き移った彼は、幽谷ゆうこくから喬木きょうぼくに移った趣があったくらいです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私達は世にう深山幽谷ゆうこくというのは真にこういう所を言うのであろうというような恐ろしい深山幽谷の間を歩いて参りますと、カックー、カックーという杜鵑ほととぎすの声が幾度か聞こえます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
すなわち当時の僕の感傷主義は、曇った眼一つでとぼとぼと深山しんざん幽谷ゆうこくを歩む一人の遍路を忘却し難かったのである。しかもそれは近代主義的遍路であったからであろうか、僕自身にもよく分からない。
遍路 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
三十有余人を一家いっけめて、信州、飛騨ひだ越後路えちごじ、甲州筋、諸国の深山幽谷ゆうこくの鬼を驚かし、魔をおびやかして、谷川へ伐出きりだす杉ひのきかしわを八方より積込ませ、漕入こぎいれさせ
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
らん幽谷ゆうこくに生じ、剣は烈士に帰す。美くしき娘には、名あるむこを取らねばならぬ。申込はたくさんあるが、娘の気に入らぬものは、自分の気に入らぬものは、役に立たぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なにしろこの通りな深山幽谷ゆうこく、町の捕物みたいなわけにゃ行きません。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこか幽谷ゆうこく薫蘭くんらんといった感じがする。玄徳は心のうちで
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)