帆檣ほばしら)” の例文
閃光が半ば沈みかけた帆檣ほばしら浮彫うきぼりにし、その上には黒い大きな鵜が翼に飛沫を浴びつゝとまつてゐる。そのくちばしには寶石をちりばめた腕環を啣へてゐる。
そこで羽ばたきをして飛んで往くと、たくさんの朋輩の鴉ががあがあとはしゃいで飛んでいた。そして、それに随いて往って往来している舟の帆檣ほばしらの周囲を飛んだ。
竹青 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼は軍艦の形を遠くから見てその軍艦の名を云ひあて得ることや、水雷艇の戦闘任務や、帆檣ほばしらの旗を見分けることや、また造船部内のことなどを知つてゐたのである。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
帆檣ほばしらに吊った彫花ちょうかの籠には、緑色の鸚鵡おうむが賢そうに、王生と少女とを見下している。…………
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
船艙では、破戸漢ごろつきどもが首をのばしてガルールの帰りを待っていたが、間もなく大濤おおなみがどっと船の横っ腹へ打衝ぶっつかって船体がはげしく揺れだすと、帆檣ほばしらがギイギイ鳴る。綱具が軋む。
終夜が波の響と風の音と、それに雑多の——それは帆檣ほばしらに降る、船室の屋根の上甲板じょうかんぱんに降る、吊ボートに降る、下の甲板に降る、通風筒に吹きつける、欄干てすりに降る、——雨の音であった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
暗黒の中にいましめ合いながら、疾風にもまれていたが、そのうちに船と船とは衝突するし、かじを砕かれ、帆檣ほばしらを折られ、暴れすさぶ天地の咆哮ほうこうの中に、群船はまったく動きを失ってしまった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
篠懸すゞかけの木よ、總大將が乘る親船おやぶね帆檣ほばしら、遠い國の戀に向ふはらんだ帆——男の篠懸すゞかけ種子たねを風に石弩いしゆみの如く、よろひを通し腹を刺す——女の篠懸すゞかけ始終しじゆう東をばかり氣にしてゐて定業ぢやうごふ瞑想めいさうする
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
帆檣ほばしらなかば折れ碎け
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
溺れた屍が鳥と帆檣ほばしらの下に沈み、緑色の水をとほしてほの見え、腕環うでわが洗ひ流されたか、それとも引きちぎられたかした美しい一本の腕だけが、くつきりと見えてゐるのだ。
煙のように棚びいている夜霧のために、船の帆檣ほばしらも海岸の人家もぼうっとぼかされ、波止場に積まれた袋荷ふくろに函荷はこにも霧にめられて、その雨覆ほろにたまった雫の珠がきらきら光っていた。
この船は、七百八十石積みで、三本帆檣ほばしら
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帆檣ほばしらの森に立つすさまじき絞臺かうだいの姿。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「うむ、ガラ空きだ。おれは船首へさきも、船尾ともの方も、上から下まで探した。大きな声で呼んでみた。けれどだアれもいやしない。かじにも、帆檣ほばしらにも、甲板の何処にも、まるで人がいないんだ」
「すべての船の帆檣ほばしらに!」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)