差閊さしつか)” の例文
その理窟は、ラジオでもなんでも、盗み聞いて差閊さしつかえない——といって奨励するような口ぶりでありましたから、道庵もあきれ返りました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし、絵で見る天使はみんな裸体だから、あれでいっこう差閊さしつかえあるまいと彼はこの悲劇に不謹慎ふきんしんなユウモアをろうして満廷を苦笑させた。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「そうですね、梢さんは別に物質を望むような人でもないでしょうから、差閊さしつかえはないと思いますけれど、籍を入れるのだけはどうかな。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これはカフェくずれの青年たちを目当てのガールなのだが、たまたまバー・カナリヤから出て来たの妖酒に酔いしれたお客さんだとて差閊さしつかえない。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
蚕が始まると三日も四日も眠らずに過すことがある、人を雇うほどのゆとりはないし、少く掃けば収入に差閊さしつかえるので、お豊は体をいとわず働きとおした。
藪落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
案じて申しただけの事じゃよ。はははは、自分の懐中ふところではないから、お費用いりようもまた、めでたいと云っておく分なら、随分、めでたいでも、お差閊さしつかえはないとしてよい
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と手當にまで及びしが思ひのほか越前守は言伏られ返答にさへ差閊さしつかへたれば一先恐入て天一坊に油斷ゆだんさせ自ら病氣と披露ひろうし其内に紀州表を調しらべんものと池田大助を呼で御月番の御老中へ病氣びやうきの御屆けを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして、かねて準備しておかれた川崎在平間村の一おくに入った。ここに十日間ばかり滞在して、江戸の情勢をうかがっていたが、差閊さしつかえなしと見て、十一月の五日にはとうとうお膝元へ乗りこんできた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
根津の店が失敗したおりに逐返おいかえしたきりになっている、父親をよろこばせに行った頃には、彼が留守になっても差閊さしつかえぬだけの、たちの上手な若い男などが来ていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
べつに一定の風俗扮装ふんそうがあるわけではなく、その目的が他日の武門生活の修行にあれば、虚無僧でも何でも、それを武者修行とよんで差閊さしつかえないわけであるが、やがて、それが社会の表面に
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんによらず一切合切がっさいもらうことにしておいて、いっこう差閊さしつかえない。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
さすりながら其こゝろざしはうれしけれど如何いかに年貢の金に差閊さしつかへたりとて其方達そのはうたち浮川竹うきかはたけしづめんとは思ひもよらずと十兵衞は妻お安の泣居なきゐるをはげまし餘り苦心くしんをするとよき工夫くふうの付ぬ物なりと自在鍵じざいかぎより鑵子やくわん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
どんな大将だって初めは皆な少尉候補生から仕上げて行くんだから、その点は一向差閊さしつかえない。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「何ッ! 天下の大道、誰が歩くに致せ差閊さしつかえがあろうか」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お島はその会社のものを、自分の口一つで一手に引受けることが何の雑作もなさそうに思えたが、引受けただけの仕事の材料の仕込にすら差閊さしつかえていることを考えずにはいられなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)