屯所とんしょ)” の例文
彼の背が、ドアに隠れると同時に、爺やの訴えで、山手屯所とんしょの巡査の一隊が、ここへ殺到して、騒然と、家の周囲をとり巻いた。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これも滑稽な話で、新撰組の屯所とんしょへ入る盗賊があると思うのも、あったと届けるのも、共に虫のよい骨頂こっちょうであるが、表面はそれで通った。
各寝室の鉄格子てつごうしの窓には灯火が上下し、新館の上層には一本の炬火たいまつが走り動き、かたわら屯所とんしょにいる消防夫らは呼び集められていた。
屯所とんしょの小屋はテントがわりに、文字通り一夜の露をしのげば足りた。鍬やのこぎりやホソなどを外気にさらさせないためのものであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
その線にったところどころには武装巡警の屯所とんしょを設けて、内外の交通を断ちきってしまう。必要に応じては鉄条網をはりめぐらすこともある。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
しかし、ふと右手の街角にアメリカの駐屯兵の屯所とんしょが見えた。彼はいきなりその並んだ軍服の列の中へ飛び込んだ。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そのために彼は供奉ぐぶ警衛の人々の手から巡査をもって四大区十二小区の屯所とんしょへ送られ、さらに屯所から警視庁送りとなって、警視庁で一応の訊問じんもんを受けた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
のがれようと、しきりにもがく少女の体を、石岡はずるずる引きずるようにして屯所とんしょの小屋へ入った。——そして、あきれている半九郎のまえにどうんとつき倒した。
梟谷物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
救護隊の屯所とんしょなども出来て白衣の天使や警官が往来し何となく物々しい気分が漂っていた。
静岡地震被害見学記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
五街道ごかいどうへの出入り口出入り口に、浪人改めの隠し目付け屯所とんしょなるものを秘密に設け、すなわち、東海道口は品川の宿、甲州街道口は内藤新宿ないとうしんじゅく中仙道なかせんどう口は板橋の宿、奥羽、日光両街道口は千住せんじゅ
大牢ろうのあった方のみぞを埋めて、その側の表に面した方へ、新高野山大安楽寺こうぼうさま身延山久遠寺にちれんさまと、村雲別院むらくもさまと、円光大師寺えんこうだいしさまの四ツの寺院おてら建立こんりゅうし、以前もとの表門の口が憲兵屯所とんしょで、ぐるりをとりまいたが
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
いわゆる後家さんの屯所とんしょであろう。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
巡「屯所とんしょへ参れ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
キュルテュール・サント・カトリーヌ街に足を止める通行人には、消防夫屯所とんしょの向こう、湯屋の表門の前に、花卉かきや盆栽がいっぱい並べてある中庭が見える。
七兵衛が島原の遊廓附近に彷徨さまようて、お松を受け出す費用のために、壬生の新撰組の屯所とんしょへ忍び入った時に、山崎はたしか小間物屋のふうをして、そのあとを追い
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「はあじゃないぞ貴公。人民の保護にあたる重務にある警察屯所とんしょの巡査が、日向ひなたで犬ののみなんぞ取っとるやつがあるか。——一等巡査殿が、あちらで探しとるじゃないか」
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして運搬係りのものと云えば、彼らは谷間に進められた屯所とんしょに向って、草屋根の草いきれもはげしい仮小屋に、器具や材料や、わけても糧食を肩にかついで運ぶのであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
お隅が出て挨拶あいさつすると、その巡査は区内の屯所とんしょのものであるが、東京裁判所からの通知を伝えに来たことを告げ、青山半蔵がここの家の寄留人であるかどうかをまず確かめるような口ぶりである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「だれか一騎、すぐに屯所とんしょへ飛べッ」
消防屯所とんしょ
火事教育 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼は近くの屯所とんしょから一人の伍長と四人の兵士とを請求し、それを中庭に残して置き、ただ簡単にやってきたのだった。彼は門番の女からファンティーヌの室を聞いた。
その後ろ姿を見て、兵馬は合点のゆかぬ思いをしながら壬生の屯所とんしょへ帰って来たのでありました。
関門屯所とんしょの営倉の中に、手錠をかけられたまま、露八は、ゆうべの夜半よなかからほうり込まれていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
消防夫屯所とんしょの所では低くなり、湯屋の所では高くなり、種々な建物で中断され、ラモアニョン旅館の上とバヴェー街の上とは高さが異なり、至る所に坂や直角があった。
「では、京都へ来たらぜひ拙者のところへ寄り給え、三条の新撰組の屯所とんしょと言えば直ぐわかる。だが、隊へ来て、歳どん、歳どんは困るよ、土方先生とたずねて来いよ」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
規定どおりに、彼は山手屯所とんしょの出張室へ帰って来た。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月心院の屯所とんしょの大きな火鉢を囲んで、伊東配下、御陵衛士隊の錚々そうそうたるもの、鈴木三樹三郎、篠原泰之進、藤堂平助、毛内もうない有之助、富山弥兵衛、加納道之助の面々が詰めきって
猟人らの言うように彼は取り巻いた。その出口を見張るために警官の一人を他の道から急いでつかわした。造兵廠ぞうへいしょう屯所とんしょにもどる一隊の巡邏兵じゅんらへいが通ったので、それを頼んで引きつれた。
「関門屯所とんしょへ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうどこの時、邸外を通り合せたのが白金しろがね屯所とんしょを置く荘内藩しょうないはん巡邏隊じゅんらたいでした。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
衛兵の屯所とんしょもすぐそばにあった。
彼等は喜んで一味と共に新撰組を去り、別に東山の高台寺へ屯所とんしょを設けたのだ。
表向き隊の屯所とんしょの方面は、今暁、昨晩からかけてものすごい人の出入りで、ものすごい殺気があふれ返っていると見えたが、それも、やがて、げっそりと落ち込んだように静かになってしまったから
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「高台寺の屯所とんしょへ帰るのか」