小網町こあみちょう)” の例文
また若い文学者間には有名なメイゾン・コオノスが小網町こあみちょう河岸通かしどおりを去って、銀座附近に出て来るのも近いうちだとかいう噂がある。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
うごめくものの影はいよいよその数を増し、橋むこうの向井将監の邸の角から小網町こあみちょうよろいの渡し、茅場町の薬師やくしから日枝神社ひえじんじゃ葭町よしちょう口から住吉町すみよしちょう口と
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
何年かのうちには、鉄砲かついで、西の方から、逢いに来よう、小網町こあみちょう伯父貴おじきへも、割下水わりげすいへも、同じようにいっといてくれればいい。……じゃ、おやす
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
「昨夜殺されたと、何だって今頃あわてて飛んで来るんだ。あの辺は第一、小網町こあみちょうの仙太の縄張じゃないか」
その一方は駿河台するがだいへ延びて神田かんだを焼きさ、伝馬町てんまちょうから小舟町こぶなちょう堀留ほりどめ小網町こあみちょう、またこっちのやつは大川を本所ほんじょに飛んで回向院えこういんあたりから深川ふかがわ永代橋えいたいばしまできれえにいかれちゃった
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
半蔵らがめざして行った十一屋という宿屋は両国りょうごくの方にある。小網町こあみちょう馬喰町ばくろちょう、日本橋数寄屋町すきやちょう、諸国旅人の泊まる定宿じょうやどもいろいろある中で、半蔵らは両国の宿屋を選ぶことにした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
このように夏かせぎの水泳場はたびたび川筋を変えたが、住居は今年の夏前までずっと日本橋区の小網町こあみちょうに在った。父は夏以外ふだんの職業として反物たんもののたとう紙やペーパアを引受けていた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さて相川は孝助を連れてわが屋敷に帰り、互に無事を悦び、其のは過ぎて翌日の朝、孝助は旅支度の用意のめ、小網町こあみちょう辺へ行って種々いろ/\買物をしようとうちを立ちで、神田旅籠町へ差懸る
紺と白とのつばめ骨牌カルタの女王の手に持った黄色い草花、首の赤いほたる、ああ屋上庭園の青い薄明、紫の弧燈にまつわる雪のような白い蛾、小網町こあみちょうの鴻の巣で賞美した金粉酒オウドヴィドダンジックのちらちら、植物園の茴香ういきょうの花
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
……三番は、平河町ひらかわちょう騎射きしゃ人形、……四番は、山王町の剣に水車みずぐるま、……八番は、駿河町するがちょう春日龍神かすがりゅうじん、……十七番は、小網町こあみちょうの漁船の山車、……四十番が霊岸島れいがんじま八乙女やおとめ人形‥…
それから廿年後になると、漆掻の彦兵衛は、小網町こあみちょうで金貸になっていた。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸日本橋小網町こあみちょうの廻船問屋港屋太蔵みなとやたぞう方へ嫁に来ていて、夫婦仲もたいへんにむつましかったのだが、このお盆の十五日、ひわという下女を連れて永代へ川施餓鬼かわせがきに行った帰途かえりみち
小網町こあみちょう船宿ふなやどでわかれたきり、その後、三日になるがようとして顎十郎の消息が知れない。