容貌かおだち)” の例文
木々のもふく春に向いて、嬰児あかごの手足は、日ごとにまろくなって行った。父の血をうけて、この子も意志強い容貌かおだちしていた。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世には妙な容貌かおだちの人もあればあるもので、泣いている時ですら見たところは笑っているとしか思われないものがあります。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まず最初に容貌かおだちを視て、次に衣服なりを視て、帯を視て爪端つまさきを視て、行過ぎてからズーと後姿うしろつきを一べつして、また帯を視て髪を視て、その跡でチョイとお勢を横目で視て、そして澄ましてしまう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
目鼻立めはなだち尋常じんじょうひげはなく、どちらかといえば面長おもながで、眼尻めじりった、きりっとした容貌かおだちひとでした。ナニ歴史れきしに八十人力にんりき荒武者あらむしゃしるしてある……ホホホホ良人おっとはそんな怪物ばけものではございません。
容貌かおだちというものもこれだけ美しければ確かに一つの事件である。たとえば銀座で擦れ違う美人の数は多いが、眼を瞠らせるというのはそうザラにはない。花子の顔はその数少ないうちの一つ。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
容貌かおだちは長い方で、鼻も高く眉毛まゆげも濃く、額はくしを加えたこともない蓬々ぼうぼうとしたで半ばおおわれているが、見たところほどよく発達し、よく下品な人に見るような骨張ったむげに凸起とっきした額ではない。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかし容貌かおだちは水際だッているだけに十分若い人と見える。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
井戸掘りにしては男ぶりのよい又八の容貌かおだちや、総じて蒲柳ほりゅうな体つきも、そう気をつけて見られると、彼に不審を抱かせた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
物腰のしおらしい、背のすらりとした、黒目勝の、つくれば粧るほど見勝みまさりのしそうな御容貌かおだち。地の御生おうまれでないということは美しい御言葉で知れました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すぐ悔いを覚えたものの——『これほどな馬数うまかずにも、あれにまさるは見うけません。容貌かおだちひとみ尾長おながなど、名馬のそうを、ことごとくそなえたものです』
寧子と書いて、ねねとむ。その可憐な名も、この娘の人がらにふさわしかった。小さく整った容貌かおだちに、ぱちりと、聡明らしいひとみを静かに持っている。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魔魅まみの眸にもみえるし、慈悲心の深い人ならではの物にもみえる。どっちとも、ふと判別のつきかねる理由は、ほかの部分の、いかつい容貌かおだちのせいかもしれない。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少年の容貌かおだちは稀に見るほどよく整っていた。知性の美といおうか、長浜の小姓部屋にいる於市、於虎、於助、於ごんなどという者どもとは、その言語挙動げんごきょどうにしても、著しくちがっているところがある。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
永年の体験で、教育者として直感したのではあるが、べつに、その少年の容貌かおだちとか、身装みなりとかに変った点があるわけではない。少年は、手を膝にかさねて、入ってきた民部を、ちらと見上げている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)