家業かぎょう)” の例文
何探偵?——もってのほかの事である。およそ世の中に何がいやしい家業かぎょうだと云って探偵と高利貸ほど下等な職はないと思っている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まえさんを、こんなところでおろしたにゃ、それこそこちとらァ、二ふたたび、江戸えどじゃ家業かぎょう出来できやせんや。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そして、夫婦ふうふは、いっしょうけんめいに、家業かぎょうせいしたのであります。四、五ねんたちました。
ちょうと三つの石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
坑夫は長蔵さんの云うごとくすこぶる結構な家業かぎょうだとは、常識を質に入れた当時の自分にももっともと思いようがなかった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それにちげえねえやな。でえいち、ほかにあんなにおいをさせる家業かぎょうが、あるはずはなかろうじゃねえか。雪駄せったかわを、なべるんだ。やわらかにして、はりとおりがよくなるようによ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
おとこはうなずいて、ついにこのからってしまいました。おんなおっとくなってしまったのち、よくその家業かぎょうまもりました。それから、またなが月日つきひがたちました。おんなとしをとりました。
ちょうと三つの石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もっとも逆上は気違の異名いみょうで、気違にならないと家業かぎょうが立ち行かんとあっては世間体せけんていが悪いから、彼等の仲間では逆上を呼ぶに逆上の名をもってしない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なにがも、かにがもあるもんじゃねえ、まかり間違まちがや、てえしたさわぎになろうッてんだ。おめえンとこだって、芝居しばいのこぼれをひろってる家業かぎょうなら、万更まんざらかかりあいのねえこともなかろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
幸い相手が、こう云う家業かぎょうに似合わぬ篤実とくじつな男で、かつ自分の不経験を気の毒に思うのあまり、この生意気を生意気と知りながら大目に見てくれたもんだから、どやされずに済んだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
既に何十頁と事がきまってる上に、頭数をそろえる方が便利だと云う訳であって見れば、たとい具眼者が屑屋だろうが経師屋きょうじやだろうが相手をえらんで筆をるなんて贅沢ぜいたくの云われた家業かぎょうじゃない。
元日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
坑夫と云えば名前の示すごとく、あなの中で、日の目を見ない家業かぎょうである。娑婆しゃばにいながら、娑婆から下へもぐり込んで、暗い所で、鉱塊あらがね土塊つちくれを相手に、浮世の声を聞かないで済む。定めて陰気だろう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)