安倍あべ)” の例文
興津おきつ川や酒匂さかわ川、安倍あべ川のやうに瀬が直ちに海へ注ぐ川は、川口にまで転石が磊々としてゐる。それには必ず水垢がついてゐる。
水垢を凝視す (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
豊雄、七二ここに安倍あべ大人うしとまうすは、年来としごろ七三まなぶ師にてます。彼所かしこに詣づる便に、傘とりて帰るとて七四推して参りぬ。
自分はいつも、もしあの芝居のように自分の母が狐であってくれたらばと思って、どんなに安倍あべの童子を羨んだか知れない。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また朝日の阿闍梨あじゃりという僧が、安倍あべぼうという陰陽師おんようじの家に忍び込んでいて、発覚してげ出そうとするところを見つけて
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「きょうここを出てゆけば、おまえにはもう安倍あべの家よりほかに家とよぶものはなくなるのだ、父も母もきょうだいも有ると思ってはならない」
日本婦道記:藪の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いんさまのおいのちをとって、日本にっぽんくにをほろぼそうとしたわたしのたくらみは、だんだん成就じょうじゅしかけました。それを見破みやぶったのは陰陽師おんみょうじ安倍あべ泰成やすなりでした。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
の間から高い窓が見えて、その窓のすみからケーベル先生の頭が見えた。わきから濃い藍色あいいろの煙が立った。先生は煙草たばこんでいるなと余は安倍あべ君に云った。
ケーベル先生 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神将 我々はあめした陰陽師おんみょうじ安倍あべ晴明せいめい加持かじにより、小町を守護する三十番神さんじゅうばんじんじゃ。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
古風な薩摩絣さつまがすりの羽織に、同じ絣の着物を着たのが、ひょいと右手を伸ばしたと思って、その指先の行くえを追跡すると、それが一直線に安倍あべ君著「山中雑記」の頭の上に到達した。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
安倍あべ和辻わつじ両君来り、謡二番。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
それから以後、この鯨の池の魚は、ことごとく片目になったというのは、とんだめいわくなおつき合いであります。(安倍あべ郡誌。静岡県安倍郡賤機しずはた村)
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この豊雄は、新宮しんぐうの神官安倍あべ弓麿ゆみまろを先生として、その許へ勉強に通っていた。
現に昨日きのう安倍あべ晴明せいめい寿命じゅみょうは八十六と云っていました。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二 駿河安倍あべ腰越こしごえ村の山中にて、雪の日足跡を見る。大きさ三尺ばかり、其間九尺ほどづゝ三里ばかり、小路に入りて続けり。又此村の手前に小川あり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
此の豊雄、一九新宮の二〇神奴かんづこ安倍あべ弓麿ゆみまろを師として行き通ひける。
是は「安倍あべ山中にて織出し、こうぞの皮をもって糸として織るものなり、又ふじを以て織るものもあり」と書いてある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
同国安倍あべ郡入江町大字上清水と不二見村大字下清水とは、ともに今の清水町に接続した地域で、以前はこの二大字の地を岡清水といい、清水港を浜清水と称していた。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ある時はまた日光山のお寺の食責じきぜめの式へ出かけて、盛んに索麪そうめんを食べたといって、索麪地蔵という名前も持っておられたそうです。(駿国すんこく雑志。静岡県安倍あべ郡長田村宇都谷)
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
『静岡県安倍あべ郡誌』には、この郡大里村大字下島の長田氏には、これも建長寺の和尚に化けて、京に上ると称して堂々と行列を立て、乗り込んできたという貉の話あり、その書が今に残っている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)