太神楽だいかぐら)” の例文
この仲間はずれの男は袴だけはつけているが、後鉢巻は倹約して、抜身の代りに、胸へ太鼓たいこけている。太鼓は太神楽だいかぐらの太鼓と同じ物だ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それより余は館に行きて仮店かりみせ太神楽だいかぐらなどの催しに興の尽くる時もなくけて泥の氷りたる上を踏みつつ帰りしは十二年前の二月十一日の事なりき。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「そんな時は、これに限る。熱燗あつかんをぐっと引っかけて、その勢いで寝るんですな。ナイフの一ちょうなんざ、太神楽だいかぐらだ。小手しらべの一曲さ。さあ、一つ。」
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弁信の姿が藪の中にすっかり没入したが、海道に踏みとどまる米友は、杖槍を中空にハネ上げたり、受け止めたり、ひとり太神楽だいかぐらの曲芸は以前に変らない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうさ、初春はるだもの。開けておけばお獅子だの太神楽だいかぐらだの、お前さんみたいな長い顔だのと、ろくなものは舞いこんで来ないからめッ放しにしてあるんだよ。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二階の上から田舎の太神楽だいかぐらに合せる横笛の声がれろれろ、ひーひやらりと面白く聞えて、月がその物干台の上に水の如く照り渡つて、その背の低い山県の姿が
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ところがそこに先客があり、まっぴるまだというのに戸閉りをした家の中で、壮烈な太神楽だいかぐらを演じていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もうおかげで太神楽だいかぐら然としたあのなりにも堪能して、さまでの未練はなくなってきてしまっている。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
まるで太神楽だいかぐらの親方みたいななりで大きな扇子を持ってでて声色を使い、若い者が一度は通ってくる嫌味な高座であったとは、岡鬼太郎さんの円朝評であるが、その頃円朝師は
噺家の着物 (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
めえなんだ生若なまわけえ身で耳抉みゝっくじりを一本差しゃアがって、太神楽だいかぐら見たようなざまをして生意気な事を云うねえおッちゃア青二せいだ、鳥なら雛児ひよっこだ、手前達てめえたちに指図を受けるものか
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
太神楽だいかぐらもはいり込む。伊勢いせへ、津島へ、金毘羅こんぴらへ、あるいは善光寺への参詣さんけいもそのころから始まって、それらの団体をつくって通る旅人の群れの動きがこの街道に活気をそそぎ入れる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ところがそこに先客があり、まっぴるまだというのに戸閉りをした家の中で、壮烈な太神楽だいかぐらを演じていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
テケテケテン、テトドンドンと、村のどこかで……遠い小学校の小児こども諸声もろごえに交って、しずかえて、松葉が飛歩行とびあるくような太神楽だいかぐらの声が聞えて、それが、こだまに響きました。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奥座敷の客が呼びこんだのであろう、初春はつはるらしい太神楽だいかぐらのお囃子はやしが鳴りだした。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは「太神楽だいかぐら」を「タイカグラ」だの「寄席」を「ヨセセキ」などと発音する当時のアナウンサー諸君を叱正し、希くは東京の声で正確にアナウンスしてもらひたいと書かれたものだつた。
下町歳事記 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
やぶ山茶花さざんかときれいな小川と、まして茶荘や寮構りょうがまえの多いここらあたり、礼者や太神楽だいかぐらの春めきもなく、日ねもす消えぬ道ばたの薄氷から早くもシンと身にみる夜寒よさむの闇がただようています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)