天目てんもく)” の例文
鉄釉てつぐすり一色で模様も何もありませんが、この釉薬くすりが火加減で「天目てんもく」ともなり「あめ」ともなり「かき」ともなり時としては「青磁せいじ」ともなります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
お妻の局がお薬湯の天目てんもくをささげ、また、ほかの局も、お手ふきやら、ぬる湯を入れた耳盥みみだらいなどを持って、廊から廊を、執権のいる表小御所おもてこごしょのほうへ渡って行った。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上に女が天目てんもくへ茶をせて出す。おれはいつでも上等へはいった。すると四十円の月給で毎日上等へはいるのは贅沢ぜいたくだと云い出した。余計なお世話だ。まだある。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
直輝は手にとって、くりかえしくちずさんでいたが、やがてしずかに天目てんもくをとりあげて妻を見た。
日本婦道記:梅咲きぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小平太はだんだん大胆になって、少しずつ門のとびらを開けて行った。もう少しで頭だけ入りそうになった時、すうと向うに見える障子が明いて、天目てんもくを持った若い女が縁側にあらわれた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
会津の或る寺でも守鶴西堂しゅかくせいどう天目てんもく什宝じゅうほうとし、稀有けうの長寿を説くこと常陸坊海尊同様であったが、その守鶴もやはり何かのついでに微々として笑って、すこぶる自己のじつは狸なることを
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その時一人のお小姓が、恭しく天目てんもくを捧げながら、襖をあけて入って来た。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が登ってから、ばあやのおせきが昆布茶を天目てんもくに捧げて持って来た。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
白絵、刷毛目はけめ、櫛描、指描、流釉ながしぐすり天目てんもく、柿釉、飴釉、黄釉、緑釉等々々。作る品は実用品ばかりである。
日田の皿山 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
公重は、気がついたように、置かれてあった天目てんもくの茶をうつつなくんだ。
「なにごとですって」六左衛門は水を飲み終って云った、「ではなにも知らないんだな、うんそうだろう、知っていればでかけた筈だからな、もう一杯くれ」空になった天目てんもくを千世に渡して続けた。
四日のあやめ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わずかばかりの金を払って背負いぶくろ天目てんもく土瓶どびんやら、飴色あめいろの「うるか」つぼやら、黄色の茶碗やら、緑釉の小壺などを入れて村と別れる。私には大事な宝物である。重くても軽い。
日田の皿山 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「もうひとり、あだ名を天目てんもく将軍とよばれ、今、潁州えいしゅうの練兵指揮をやっている彭玘ほうき。この二人を左右の腕にもてば、たとえ水泊の草寇こぬすびとなど何万おろうと、不日、きれいにかたづけてごらんにいれる」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
数え挙げれば天目てんもく油滴ゆてき、柿、飴、黄伊羅保きいらぼ、蕎麦、青磁せいじ等、それも火変りがあり片身変かたみがわりがあり、自然が器物のために余すなく妙技を振う。陶工たちは凡てをそれにまかせてしまう。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
佐吉は天目てんもくを下げて行った。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
品物もあらゆるものに及び、技法もあらゆる変化に及びます。堅い磁器から柔かい楽焼らくやき、白い白磁はくじ、青い青磁せいじあい染附そめつけ、赤の上絵うわえ、または象嵌ぞうがん絞描しぼりがき流釉ながしぐすり天目てんもく緑釉みどりぐすり海鼠釉なまこぐすり、その他何々。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
高坏たかつき、茶碗、皿、壺、鉢など見たいと思ったものがえんにずらりとならぶ。その現物と一々照し合せ、画を描いて寸法を定め注文にとりかかる。天目てんもく白磁はくじとの両方である。凡てで幾百個になったのか。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
遠く伯耆ほうき因幡いなばにもおよんで「五郎八ごろはち茶碗」ともいわれる。古いものは主として緑青か白の失透釉を用いたが、後には宝珠ほうしゅの玉の模様を入れ、色も黄色のが多い。時として無地天目てんもくのものも見かける。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)