坐蒲団ざぶとん)” の例文
旧字:坐蒲團
宅では御米が、宗助に着せる春の羽織をようやく縫い上げて、おしの代りに坐蒲団ざぶとんの下へ入れて、自分でその上へ坐っているところであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、足が酷く汚れていたのでひざめいの寝ているらしい奥の間の方へした。黄色い坐蒲団ざぶとんまるめたようなものが見えた。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
坐蒲団ざぶとんを敷いて坐る前に、お房やお菊のくやみだの、郷里くにに居るしゅうとめからの言伝ことづてだの、夫が来てよく世話に成る礼だのを述べた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
けだし走者の身体の一部この基(坐蒲団ざぶとんのごとき者)に触れおる間は敵の球たとい身の上に触るるも決して除外とならず。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
先方へ行くと、驚いたことに、隠居の老婦人は、奥座敷の坐蒲団ざぶとんの上に端然として坐って居ました。けれども、私が一層驚いたのは、隠居さんの風丰ふうぼうです。
血友病 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
小舞こまいかきの竹は勝手を知っていますから、明店あきだな上総戸かずさどを明けて中へ這入はいり、こもき、睾丸火鉢きんたまひばちを入れ、坐蒲団ざぶとんを布きましたから、其の上に清次は胡座あぐらをかき。
病中は括枕くくりまくら坐蒲団ざぶとんか何かをくくって枕にして居たが、追々おいおい元の体に恢復かいふくして来た所で、ただの枕をして見たいと思い、その時に私は中津の倉屋敷に兄と同居して居たので
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
身に浸みるほどありがたい御親切の御相談、しかもお招喚よびつけにでもなってでのことか、坐蒲団ざぶとんさえあげることのならぬこのようなところへわざわざおいでになってのお話し
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「兄さん泣いてなんぞいないで、お坐蒲団ざぶとんをここに一つ持って来て頂戴ちょうだい
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
宗助そうすけ先刻さっきから縁側えんがわ坐蒲団ざぶとんを持ち出して、日当りの好さそうな所へ気楽に胡坐あぐらをかいて見たが、やがて手に持っている雑誌を放り出すと共に、ごろりと横になった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ろくな店も工場も持って居ぬ奴が小やかましい説教沙汰ばかりを店員や職工に下して、おのれは坐蒲団ざぶとんの上で煙草をふかしながら好い事を仕たがる如きしらみッたかりとは丸で段が違う。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
門野は茶の間で、胡坐をかいて新聞を読んでいたが、髪をらして湯殿から帰って来る代助を見るやいなや、急に坐三昧いざんまいを直して、新聞を畳んで坐蒲団ざぶとんそばへ押し遣りながら
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
土間からオズオズのぞいて見ている大噐氏の眼には、六畳敷位の部屋に厚い坐蒲団ざぶとんを敷いて死せるが如く枯坐こざしていた老僧が見えた。着色の塑像の如くで、生きているものとも思えぬ位であった。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あるときは書斎でじっと坐っていて、何かの拍子に、ああ地震が遠くから寄せて来るなと感ずる事がある。すると、しりの下に敷いている坐蒲団ざぶとんも、畳も、乃至ないし床板も明らかに震える様に思われる。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)